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トシサダ戦国浪漫奇譚
第一章 天下統一編
第二話 新生活
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の姫様と呼ぶことにした。
 俺の振った話を聞いた治胤の表情は優れなかった。この話は禁句だったか。俺と治胤の間に沈黙が広がった。
 凄く気まずい。急に重苦しい空気になってしまった。

「大野殿、あの。すみません」

 俺は気まずさから治胤に謝罪した。ここまで治胤が母や兄のことを引け目に感じているとは思わなかった。

「小出殿が謝る必要はありません。小出殿に他意ないとことは重々承知しています」

 治胤は無理して笑顔を保っていた。あまり触れて欲しくないことは確かなようだ。この時代は縁故で仕官・出世することは普通のことように思っていた。だが、茶々の妹、初の夫である京極高次は「蛍大名」と嘲笑されていたことを考えると、縁故の種類によっては嫉妬を買いやすく中傷を受けたりすることがあるのかもしれない。
 大野治長の出世は十割は彼の母の存在のお陰であることは疑うべくもない事実といえる。彼はお世辞にも官位や大名に見合った手柄は立ててない。

「私も大野殿の兄上とは変わりません。虚名も無き、手柄も上げていない私が五千石なのです。私こそ縁故の極みというものです。大野殿も気にしないでください」

 俺は豪快に笑い声を上げた。治胤の表情が少し和らいだ。

「小出殿は良い方ですね」

 治胤は俺から視線を逸らし前方を見た。その先の遠くには聚楽第があった。

「茶々様には何度かお会いしたことがあります。あの方はお美しく凜とした女性です。ですが、人知れないご苦労をお抱えになっておいででした」

 治胤は回想に耽るような目で遠くを見つめていた。大野治長兄弟も色々とあるようだな。

「茶々様の立場を考えれば苦労ばかりでしょうね。何と取り繕おうと、彼女のご実家は既になく孤児と同じです。殿下の庇護が無ければ生きていけない。だからだと思います。彼女は殿下の側室になった。そうすることで妹達に帰る場所を作ってあげたかったのでしょう。私は彼女を芯の強い情に深い優しい方だと思います」

 治胤の話を聞き、俺は自分が抱く茶々の人物像を語った。茶々は浅井長政と織田市との間に生まれた姫だ。それを叔父、織田信長により父と家を奪われた。本来ならここでのたれ死んでもおかしくない。彼女は幸いなことに織田信長から庇護された。その叔父も謀反により本能寺で死ぬ。その後は柴田勝家、次は豊臣秀吉と庇護者が転々と変わった。そして、茶々は二人の妹以外を全て失った。その彼女が血を分けた妹を守るためにできることなど限られている。そう考えると茶々のことが不憫に感じられた。俺は感傷的な気持ちになり多くを語ってしまった。

「茶々様のことをその様に思って下さる方がおられるとは思いませんでした。茶々様が小出殿の言われたことを聞けば怒ると思いますが」

 治胤は俺に嬉しそうに笑顔を返した
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