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真田十勇士
巻ノ六十二 小田原開城その十

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「どうもな」
「お身体が優れぬ」
「どうしてもですか」
「そうじゃ、困ったことじゃ」
 自分よりもむしろ羽柴家そして秀吉の行く末を案じての言葉だ、自分がいなくてはどうなるかというのだ。
「わしの様な者でもおらねばか」
「いえ、殿がおられるからこそです」
「関白様はここまでなったとご自身も言われています」
「それはその通りです」
「ですから」
「長生きしたいものじゃ」
 切実な言葉だった、心からの。
「わしは養生が必要か」
「もう北條殿は降るとか」
「これで天下は統一されます」
「ならばいよいよ殿のお力が必要になります」
「政をせねばなりませんから」
「これまで以上に」
「わかっておる、わしは戦より政の方が好きじゃ」
 そして得意とも感じている、兄と同じく政についてはそうなのだ。そして実際にかなり優れた手腕を見せている。
 しかしだ、それでもというのだ。
「それも長生きしてこそじゃ」
「生きておれば政が出来る」
「だからですな」
「殿も長生きしたい」
「そうなのですな」
「そうじゃ、やはりわしは生きたい」
 こう思って止まなかった、だがだった。
 秀長は昨日よりもさらに重くなった身体を感じてだ、こう言ったのだった。
「無理やもな」
「ですか」
「どうしてもですか」
「それは適わぬ」
「ご自身ではそう思われていますか」
「人の寿命はどうにもならぬ」
 例えどの様な薬を飲み湯に入ろうとも、というのだ。
「わしも同じやもな」
「ですか」
 家臣達もこれ以上は言えなかった、秀長の顔色があまりにも悪いのを見てだ。それで言うことは出来なかった。
 だがこのことは多くの者は知らなかった、それこそ秀吉以外はだ。だから天下はこのまま羽柴家のものになると思われていた。
 それは氏直も同じでだ、彼は家臣達に言った。
「わしが降りな」
「そして、ですか」
「腹を切られる」
「そうされるのですか」
「うむ」
 こう言うのだった、覚悟した声で。
「父上にも誰にも迷惑をかけずな」
「誰一人としてですか」
「他の誰も腹を切らせず」
「北条家の主である殿が腹を切られ」
「それで終わらせてもらいますか」
「そうしたい、では明日関白様にお伝えする」 
 使者をやってそのうえでというのだ。
「ではな」
「ですか」
「そうされますか」
「うむ、その様にな」
 こう言ってだ、氏直は切腹の用意をさせた。だがその彼のところにだ。
 氏政が来た、戦の前とは違いやつれ果てている。だがそれでも背筋を伸ばして氏直達のところに来て言った。
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