ひだる神
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「まずいねぇ、ほんと、まずいことになったねぇ」
だが、お前はまだ助かる。
それっきり、奉は何も云わなかった。
俺に何かが起こったのだな。それだけは理解した。で、俺は洞の奥の牢屋っぽい場所に放り込まれている。時折きじとらさんがふらりと現れては様子を見るようなそぶりをする。そして若干心配を滲ませた表情で首を傾げた。肩口で揃えられた黒髪がさらりと揺れる。退屈だと訴えると、猫じゃらしを鉄柵の隙間に差し込んでゆらゆらさせてくれる。…くそ、一体俺に何を求めているのだ、この人は。
「あの…きじとらさん」
「はい、なんでしょう」
「何か食べちゃ駄目ですか」
「駄目です」
食べることが呼び水になると、奉様が。きじとらさんは言葉少なに云うと、再び猫じゃらしを揺らし始めた。
「猫じゃらしは、いいです」
「そう。いいものですね」
「いや違う。要りません、という意味です」
「…そうですか」
きじとらさんの感覚は、少しずれている。普段はそんなには気にならないが、こうして二人きりになるともう、俺はどうしていいのか分からない。
「では、私はこれで」
「いや、ちょっ…ちょっと!!」
待て待ていくらなんでも猫じゃらし振るだけ振って放置は酷いんじゃないか!?
「何か情報、下さいよ!俺何も聞いてない状態でここに放り込まれて!!」
「何を、聞きたいのですか?」
そう云って小首をかしげ、大きな瞳で俺を凝視する。
「あの…俺はどうしてここに居るんですか、そしていつまでここに居ればいいんですか!?」
きじとらさんは困ったような顔で反対側に首を傾げ、そのまま少し固まる。
「今は知らない方がいい、と」
「……分かりました。じゃ、いつまで居ればいいのかだけでも!」
困った顔は消えない。…まさか。決まっていないのか…!?
「どうして教えてくれないんですか!?」
「今は知らない方がいい、と」
「教えてください!!」
「開けませんよ」
「いいから!」
「信田、という男が、死ぬまでです」
―――信田!!!!
きじとらさんは俺が何か言い返す前に鉄柵の前を離れた。
ちょっと待て、信田が死ぬってどういうことだ、何も聞いてない、その前に俺がここに居る理由は何だ。
俺は敬語も忘れて色々な事を叫んだ気がする。壊れる筈のない鉄柵を何度も叩いた。奉を呼んだ。
きじとらさんは姿を現す事はなかった。
―――奉が俺を迎えに来たのは明け方近くだった。
「信田が、死んだのか」
鉄柵の前に現れた奉は、何も云わなかった。ただ、鉄柵の錠を外した。…それが、全てを語っていた。不承不承だが俺は立ち上がった。くらりと眩暈がして、手探りで鉄柵を掴む。
「…何か、食いたい」
自分でも意外な言葉が出た。淡い燭台の光を背
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