Side Story
少女怪盗と仮面の神父 32
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右肩から左の腰上辺りまでを斜めに斬られたイオーネが、長い髪を宙に舞わせながらアーレストの足元へうつ伏せに倒れ込む。マーシャルと交えていた短剣が手元を離れ、カラカラと音を立てて石の群れに転がり落ちた。
「ネフテル隊は此方側の残党を制圧！ レミエーヌ隊は速やかに対岸へ移動後、パーシバル隊と合流！ 此処から直線上の何処かに弓型の強化兵器が設置、若しくは持ち運ばれてる筈だ。周辺を徹底的に洗い、見付け出して破壊せよ！ 射ち手共は全員捕縛！ 最悪、不慮の事故が起きても構わん。大森林の外へは一歩も出すな！」
「「ハッ！」」
男性が声を張り上げると、森から飛び出して来た二人の騎士が並んで男性に一礼し、一人は再度森の中へ。一人は川沿いを下り方面へ、それぞれ走り去って行った。直後、森の奥から猛獣のような雄叫びと、潰れた蛙のような短い悲鳴と、けたたましい金属音が一斉に湧き起こり……パタッとやむ。
総ては一瞬の出来事。速すぎる展開に驚きすぎて、言葉を発する余裕も、イオーネが斬られた光景に対して何かを感じる余裕も無かった。
「よっ！ 久しぶりだな、アーレスト。元気そうで何よりだ」
男性も、伏したイオーネをどうにかするでもなく、片手をヒョイと持ち上げてアーレストに笑い掛ける。
「……貴方の仕事上、仕方ないのは重々承知しているつもりですが……私の前での殺傷行為は極力控えていただけませんか。聖職者の眼前で流血沙汰なんて、アリア信仰への挑発行為と見做されても文句は言えませんよ」
「なんだよ、助けてやったんだろー？ 『人命救助』は信仰の教義に反する行いか？」
「イオーネさん達を誘い出す為に私やミートリッテさん達を散々利用しておいて、よくもまぁそんな白々しい台詞を……。どうせこの状況も、貴方の狙い通りなのでしょう？」
アーレストが眉間に深い皺を刻み、ベルヘンス卿が着用している物に近いマント付きの白っぽい騎士服で身を固めた男性を睨む。
男性は剣身をぶんぶんと上下に数回振って鞘に収めた後、唇の端を歪め……唐突に「ぶふっ！」と吹き出した。
「お前……アレの顔、ちゃんと見てないのか？ アレに加えて、「お前」が「誰の指示で」「この時機に」「ネアウィック村へ派遣されたのか」を考えりゃあ、首謀者なんぞ一人しか浮かばないだろうが。あいつの情報収集能力には親父も毎日戦々恐々としてるんだぞ？ こんなにも稀有で面白いネタを無駄に遊ばせておく奴じゃないってのは、長年傍に居続けたお前が一番よぉおーく理解してる筈だ。結局、俺もお前もこいつらも、あいつが欲求を満たす為に用意した手駒の一つなんだよ。残念ながら、な」
「…………。」
体を折り曲げて笑いを堪える男性の右手親指がミートリッテを指し示すと、見えない線を辿るアーレストの目が妙に暗く翳った……気がする。
(……
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