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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 32
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反応。ちなみに正解は「アルスエルナの王室」だぞ」
 「嫌だ嫌だ嫌だごめんなさいごめんなさいごめんなさ……い? え?」
 待て。この男性……今、なんと言った?
 「アルスエルナの……王室……?」
 「そ。この果汁は、アルスエルナの王室が個人的な資産を投入して買い取った実を搾った物で、一部の貴族にのみ条件付きで無料配布してるヤツだから。ハウィスに請求が回される心配はしなくて良い」
 やや濁り気味な液体が三分の一程度入っている容器を指先で摘まんでゆらゆら揺らしながら、男性もゆっくり立ち上がる。
 「な……んで、そんな物……」
 「なんで? の指す所がお前に使った目的なら、犯罪抑止の一言に尽きるな。王室が買い取った分の桃は全部、国内に於ける希少性を利用して、捕縛した侵領者全員に犯罪行為への抵抗感を植え付ける『後催眠暗示』と、暗示に関係した総てを忘れさせる『健忘暗示』を掛ける材料に使ってるんだよ。暗示の内容は対象者の性格や調べ得る限りで把握した犯罪歴なんかで変わるが、お前の場合は『桃の匂いを認識した瞬間に眠くなる』だ。眠りの深さも匂いの濃度で変化を付けておいたから、仮にお前がとんでもない悪さを企んだとしても、ハウィスが果汁を使えば最大で一週間は静かにしててもらえるっつー仕組み。よく出来てるだろ?」
 「後催眠暗示って……いつの間に!?」
 「お前が風邪で寝込んでる間に。ああ、一応言っとくがこの情報、王室と実際に配布されてる貴族しか知らない特秘事項だからな。ちょっとでも誰かに洩らしたら、適当な罪状を捏造した上でお前と一緒にそいつの首も飛ばすぞ」
 「え……、は……はぁあ!? ちょっと待って、それって……!」
 「はっはっは。戸惑う理由が何処にある? 誰にも何も悟られなきゃ良いだけの、至極簡単な話だろ?」
 「それの何処が簡単な話だ、何処が! あんた、悪魔!? 人間の皮を被った悪魔なの!?」
 人間、秘密と呼ばれる物を無理矢理暴いて大勢で共有したがるのが常だ。王室や貴族が相手なら尚更、怪しい影は無いかと国民一人一人が異様なほど具に目を光らせてるのは自明の理。
 その中で、言葉にしなくても行動や何やらで誰かに僅かでも疑問を抱かれたら、その人ごと消しちゃうぞ? とか。
 なんと恐ろしいモノを気軽に押し付けてくれたんだ、この男!
 「……あまり追い詰めないでください、エルーラン殿下。ただでさえ状況を呑み込めなくて混乱しているんですよ、彼女は」
 傍らで黙って成り行きを見守っていたベルヘンス卿が、溜め息混じりにミートリッテの頭をぽんぽんと叩いた。
 「だからこそ私が直接、丁寧に教えてやってるんじゃないか。お前達だって、まだ何も話してなかっただろ?」
 「殿下がそのようにご命令されましたので」
 「情に絆されてなくて一安心だ。お守り役、ご苦労
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