第6章 流されて異界
第153話 電気羊の夢?
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しても、そのやり直しは出来ない。ならば、未来を目指した方が余程建設的だと思うから。
それに有希もそうなのだが、俺の方も少しばかり我が儘になって良いのかも知れない。
少なくとも彼女と対する時には。
そう考え、彼女を胸に抱いたまま再び立ち上がる俺。日本人特有の……いや、その日本人の中でも取り分け張りと美しさを誇る世代特有の肌の表面を流れ落ちる水滴。最初よりも少し朱の帯びた肌が妙な色気を発し始めている。
……無理に湯に浸かったのは逆効果だったかも知れないな。一瞬、普段は色素の薄い彼女のくちびるが薄紅色に輝いている様を見て、色々な意味で後悔を感じる俺。
そう、普段は色素が薄すぎる肌も僅かにピンク色に染まり、呼吸をする度に僅かに動く小さなふくらみ。その上を流れ落ちる水滴のひとつひとつが妙に心をざわつかせ、小振りながらも非常に形の良い双丘の先に息づく蕾は……。
其処から視線を下げ……る訳には行かない。未だ女性として完成する前の少女と言う存在を模して造り出された彼女なのだが、そのような有機生命体が成熟する前に持つ曖昧な……少女が成長する為に持っている余白のような物を持ち合わせていない、創造物であった彼女は、身長その他は未だ少女と言う形を維持しているのだが、造形は既に女性そのもの。色々と、コチラにも都合と言うか、あまりにも意識し過ぎると理性の箍がはずれる可能性が高いと言うか……。
表面上は冷静な風を装っているが、実際はギリギリの状態。漢って奴は見栄と意地だけで蒼穹と大地の間に立っている、と言う事が丸分かりの精神状態。
そして――
湯船を形作る岩のひとつに彼女を腰かけさせた瞬間、かなり不満げな気を発する有希。何と表現すべきか分からないが、これで自らの感情の意味が分からない……などと言うのだから、思わず笑って仕舞うしかない。
まぁ、彼女が生きて来た人生を考えてみると、それまで誰に対しても抱いた事のない独占欲など感情の意味が分からないと言う事だとは思うのだが――
「スマン、少し湯が熱すぎたみたいや」
流石にこのままだとのぼせて仕舞うわ。
顔に向けて手で風を送りながら、本当にすまなかったなどと考えているのかかなり疑問を感じる雰囲気で話し掛ける俺。そのような短い言葉の中にも出来るだけ普段通りの雰囲気を維持するように。
そして、何時も通りに彼女の傍らに腰かけ、
「それに、話がしたいだけなら、花火を見ながらでも出来るやろう?」
光っては消える氷空の色彩。その火の子の消えた後に残滓の如く立ち込める白い煙。それらは今宵が風のない、そして、月の蒼い夜である証。
こんな夜にただ見つめ合うだけでは勿体ない。
「花火も月も、何処で見るかよりも、誰と見るかによって違う記憶を作り出す物やからな」
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