第6章 流されて異界
第153話 電気羊の夢?
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微かに水の流れる音がする。
岩と白砂。そして、緑により作り出された水墨画の如き周囲の風景。多くの日本人に愛されているであろうと言う、枯れた……侘び寂びと言う言葉で表現されたこの場所。
白い湯気の立ち込める日本式温泉旅館の典型的な露天風呂。
「くちづけの時、鼻がどう言う形になっているのか興味がある」
遠くを見るような……。過ぎ去って終った何かを見つめるような瞳。普段と同じ抑揚の少ない口調。ただ、何時も以上に感情の籠められたその囁きは、しかし、最後まで口にされる事はなかった。
但し、これは――
記憶のかなり深い部分に小さな引っ掛かり。この台詞に似た台詞を確か何処かで――
「それは、少し首を……と言うか、ここから先に台風や地震に結びつけるのは無しやぞ」
どう考えてもくちづけをねだって来た彼女に対して、まったく意味不明の言葉で答えを返す俺。それに、この時の次の台詞は確か「首を横に傾けてごらん」だったと思う。
そうそれは何時、読んだのかはっきりと覚えている訳ではない――かなり曖昧な記憶の向こう側に存在する小説の一場面。確かにこの場面に関しては印象に強く残っている以上、人生の何処かの段階で読んだのは間違いない……のでしょうが。
そして、少し呆れた顔で彼女を見つめ返した。
「ヘミングウェイ。『誰がために鐘は鳴る』のくちづけを交わす際の台詞やな」
今回は偶々俺が知っていたから良かったけど、もし知らなかったらどうする心算やったんや?
どうも時折、彼女の発する謎々のような問い掛けも、回数を重ねる毎に次第に難度が上がって来ているようで……。流石に今回は答えが分かったけど、次の問いに真面な答えが返せるかどうかは……。
もっとも、先ほどの俺の瞳に映った云々と言う台詞も、完全に俺のオリジナルの台詞と言う訳などではなく、古い映画の登場人物の台詞の変形。それを返す刀で切り返されたのですから――
そう考えると、そもそも自分が悪い……と言う事になるのか。ただ、いくら広くて薄い学問。少しばかり記憶力が良くても、所詮は一般人と比べるとマシかな、と言うレベルのオツムの出来。流石に機械の如き精確さで物事を記憶出来る彼女と比べられる訳もない。そもそも彼女の任務は監視と観察。この任務を確実に熟す為には、物事を忘却する能力があるとかなり問題があると思う。それでは任務に支障を来たす可能性の方が高いはずだから。
情報統合思念体がどれだけ本気で、自らの進化の道を探っていたのか分かりませんが、それでも彼女ら人型端末たちが得た、経験した情報は普通に考えるとすべて欲していたはず。確か、有機生命体が文明を持つに至った例は、情報統合思念体が集めた情報の中では皆無だったはずなので。
故に、彼女らの集めて来る情報は、そ
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