おくりび山。過去との決別
[2/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
に向かう。
「そういえば口先だけは一丁前だったね。ほら、さっさと家に入りな」
「物忘れはあるようですね。では、そうします」
ルビーの祖母はサファイアのことなど眼中にもないようだった。そのまま家に戻っていく。古い木造の家で、見た目は普通の一軒家と大差なかった。
「あれがボクの家だよ。……さあ、行こう」
無言で頷いてサファイアはルビーと家に入る。ルビーのただいま、という声が家に響くと、家族たちが出迎えに来た。それは娘や孫が帰ってきた時のそれとは思えないほど、険しい表情だ。
「その隣の男は誰だ?」
父親が問い詰める。
「こんなに時間がかかって。遊び歩いていたんじゃないだろうな」
祖父がそうだったら容赦しないとばかりに厳しく言う。
「出来の悪いあなたにはまだ修行しないといけないことが山ほどあるのよ。それなのに旅なんかにこんなに時間をかけて……」
母親が少し心配したように言う。尤も、それはルビー自身ではなく家の心配の様だった。
「……お母さま、お父様、おじいさま。まずは遅くなったこと、すみませんでした」
ルビーが再び頭を下げる。サファイアはこれが家族同士のやり取りかと信じられない気持ちだった。だがまだ我慢する。頂上に上がるまでにルビーと約束したのだ。まずは家族との挨拶を優先させてほしいと。できれば君のことも自分の口から説明したいと言った。それを尊重してサファイアはこらえている。
「それで、隣のは何者だ。変な虫でも拾ってきたのではあるまいな」
「お前は口先だけは達者だからな。見るからに凡庸そうな男だが、篭絡でもしたか」
「あなた、体は大丈夫なんでしょうね?祝言をあげるまでは清い体でいなければいけないのよ?」
「ふん、だとしたらさっさと次の子でも産ませればいいさ。どうせ出来損ないだし、その方がいいかもしれないね」
ひとまず謝ったことで家族の視線はサファイアに集まったようだが、あまりの言い草にサファイアの眉が吊りあがる。
「彼は変な虫でもないし、篭絡したわけでもありません。彼はボクを……初めて認めてくれた大事な人です」
「ふん、どうせ上手いことを言って誑かそうというつもりだろう」
「お前を認めるだと?出来損ないが、己惚れるのも大概にしておけ」
「ああやだやだ、男ってどうしてこうなんでしょう!」
「まったくだね、巫女ともあろうものが誑かされてどうするんだい、やはりお前は――」
「いい加減にしろ!!」
出来損ない、という言葉をこれ以上言わせない。そう言うかのようにサファイアが怒鳴った。今までサファイアが怒ったこと自体は何度も見たことがある。だけどこれは今までで、一番強い怒りだった
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ