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魔術師にとって不利な世界で、俺は魔法を使い続ける
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 21世紀も折り返そうかというこの現代、世界中がとある事象に震え上がっている。
 解析の進行が遅々として進んでおらず、決定的な事項ではない。が、その究明を急ぐため、与えられた仮称が、《狂症》だ。新たな病魔、最高位の危険薬物、遺伝による問題など様々な説が浮上し、世界中の研究者が正体を暴こうとしているが、手掛かりすらほとんど掴めていない。
 分かっている事は二つ。一つ、定義として、感染すると人としての理性を残したまま、道徳的な価値観が逆転すること。例として、心の奥底で思っているだけで普段は全く意識していなくても、『殺人は悪い事だ』と思っているならば、いとも簡単に、そして残虐に人を殺してしまう。第一級に危険と謳われる由縁がこれだ。
 二つ、感染した者の両目が鮮やかな藤色に染まること。これが今のところ唯一感染非感染を見分ける手段であり、今世紀の急激なプログラム技術の発達で、格段に性能の高まった監視カメラのネットワーク包囲網が完全配備された都市部では、外を出歩いた瞬間警察へと異変が通達、即刻保護、監禁の後研究のための施設に送られる。しかし人間としての理性は保っているため、人としてどうなのか、という批判は後を絶たない。
 その証である薄い紫色の相貌を見た俺は、想像ではあるがこの事件の真意を悟った。
 恐らくこの湊という男は狂症に感染している。生来瞳が紫色の可能性も一概に無いとは言えないが、純正な日本人らしい名前からしてそれは無いだろう。つまり、静夜の中に一度は生まれ、絶対に駄目だと自分で封印した記憶、完全なるVR世界の創造意欲を狂症によって呼び覚まされ、長い時間をかけて製作、それによって今この空間が成り立っている、というわけだ。細かい事情は本人の口から語られるだろうが、大体の道筋は読めた。
 ちょうど思考がまとまった所で、当の本人が口を開く。
「君たちをここに連れてきた理由を説明したいところだが……私もはっきりとは分からない。このVRワールドの作製を開始したのが5年前、初試作が1年前なのは記憶が定かなのだが、なぜここまで熱心になったのか、全く思い出せない」
 未だ半笑いを含んだ声を聞きながら、俺は先程の推測が真実である事を悟った。理性のみが狂っているため、企てが非常にキッチリしている人物が多いのも警察を困らせる要因なのだ。
 と、俺と同じくVR技術に興味を持っていたのであろう人物が、恐らくは女性の声でもっともな疑問をぶつける。
「それよりも!私パソコン以外に機械持ってた記憶無いわよ!なんの機器も無いのにVRなんて実現できるわけないじゃない!」
 少々ヒステリックに陥りすぎている気もするが、質問自体は何の変哲もない、誰でも思いつきそうな至極単純なものだ。
 ――だが、その回答が実際の生死に係わることも大いにある。脳への負担が少ない、と銘打っている音
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