第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#10
PHANTOM BLOOD NIGHTMAREU 〜Seventh Dimension〜
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【1】
『フラトン・シンガポール・SPW』
512号室は上質なマスカットの香りで充たされていた。
円柱状のティーサーバーに入れられた紅茶が
早朝の清らかな空気を艶冶に彩る。
カップの中に陽光を映す、澄んだミカン色の液体をやや豪放に飲み下し
満足げな吐息をついた青年が口を開いた。
「イヤァ〜、悪いねぇ〜。部屋の中まで入れてもらって。
別に催促したつもりはないんだけどなぁ〜」
相手の警戒心を薄れさせる、妙に子供っぽい笑顔を浮かべるその男は
雄々しく梳き上げた銀髪を掻きながら言った。
「アナタが、部屋の前から動かないからであります。
不審者と間違われたら、後で責任を被るのはマスターなのであります」
彼の真向かいからややズレた位置に座った女性は、
慣れない左手でも上品な仕草でカップを運んだ。
蕭やかな躑 躅 色の髪と澄み切った赤 紫の瞳。
しかし惜しむらくかな、その至上の色彩は今、
簡素な白い薄布でグルグル巻きにされていた。
右前腕部、左大腿部、右下腿部、更に前頭部から左眼にかけて
施術に則った帯法で処置され、取り分け負傷の酷い右腕は分厚い
三角巾で提肘固定されている。
これは無論昨日の襲撃者、
黒怨のスタンド 『エボニー・デビル』 と交戦した結果であり、
万全の状態でない彼女の護衛をポルナレフが(自ら進んで)
する事になった顛末でもあった。
本来単独行動が常のフレイムヘイズにとって、
戦闘で受けたダメージへの対処も使命に含まれる為
苦境は覚悟の上であったヴィルヘルミナだが、
逆に危難を取り除かれた今の状況は戸惑いを隠せないものだった。
(危難……?)
そこまで考えて、桜髪の淑女は一抹の疑念に自答を返す。
(危難が “取り除かれた” とはなんでありますか。
手負いの時にはその時なりの戦闘法も身につけているのであります。
断じて、この者を頼りになどしていないのであります)
歴戦の戦士の誇りがそうさせるのか、或いは別の理由か、
淑女はむっくりとした表情 (傍目には解らない)で
護衛役の淹れた紅茶を嗜む。
温かく、香り良く、自分より上手いのがなんだか腹立たしかった。
(不稔)
ヴィルヘルミナ以上に無機質かつ蟠った心情が側頭から漏れた。
正確には彼女の桜鬢を彩る “髪飾り” から。
この声は彼女の契約者、紅世の王その真名 “夢幻の冠帯”
ティアマトーによるものだが、彼女の不機嫌さ(非常に解り辛いが)と
この形状には然るべき理由がある。
今現在、包帯姿のヴィルヘルミナの服装は
いつもの藤色が栄えるメイド服ではない。
清楚な編み込みの入ったシルクのキャミソールと
縁に装飾のある黒のミニスカート、
銀色の
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