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豹頭王異伝
新風
弁論の魔術師
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苦しい空気をまるで感じておらぬかの様に。
 室内に漂う圧迫感を撥ね退け、他人事の様に平静な指導者の声が響き渡る。

「こう言っては語弊があるが頼もしい援軍、ゴーラ軍は血に飢えた獣だからね。
 ユラニア公女とクム公子の婚礼、トーラスの裁判は流血の惨事となった。
 モンゴールを征服した私の盟友、イシュトヴァーン直属の旗本は兎も角。
 ケイロニア軍に実力の差を見せ付けられ、末端の兵士達は荒れている筈だ。

 パロの民に牙を剥く事態も時間の問題、想定外の一言では済まされない。
 ゴーラ王の権威と恐怖を借用して直接、私と魔道師達が監視と制御を行う。
 最強の切札だから温存すると褒め称え、パロ領内では控えに廻す心算だが。
 魔道にも催眠術にも弱い勇猛な戦士達、ゴーラ軍が国境の外へ出るまではね。

 ゴーラ軍は目を離せば困った事に、キタイ勢力に操られ虐殺を始めかねない。
 そんな危険な連中を野放し状態に置き、監視の眼を離す訳には行かないよ。
 魔道に弱い野蛮人の軍団は足手纏い、クリスタル解放戦には不要かも知れぬ。
 ケイロニア軍に打ち破って貰う手もあるが、却って厄介な事になる確率が高い。

 冷酷王の恐怖と言う箍≪くびき≫から、ゴーラ兵達が解き放たれてしまう。
 バラバラになった彼等は自暴自棄となり、無辜の民に牙を剥き出すだろうね。
 阿鼻叫喚の地獄絵図、多数の犠牲者が生じる事は火を見るより明らかだ。
 当然予想され得る事態を見過す訳には行かない、対策は立てて置かねばならぬ。

 ゴーラ軍と云う集団で纏めて管理し、恐怖と云う鎖で縛って置く方が安全だ。
 兵士達は末端の1人々々に至るまで、血に飢えた冷酷な王を恐れているからね。
 彼等は忠誠心からではなく恐怖心から、ゴーラを斬り従えた魔戦士に従っている。
 だからこそ不安と恐怖から逃れる為に、流血の惨事を唯々諾々として行うのだ。

 ユラニアの将兵達も内心は反発しているだろうが、ゴーラ王に決して逆らえない。
 モンゴールの将兵達も己の感情を圧し殺し、良心の声に耳を塞いでいるのだろう。
 パロの民を護り安全を図る最上の策は、ゴーラ兵の心理を利用する一手だね。
 ゴーラ軍の軍律《ルール》を厳格に維持し、ゴーラ王を通じて私が命令を下す。

 パロの民を危険に晒さぬ為、ゴーラ王の首根っ子をしっかりと掴まえる。
 流血を呼ぶ冷酷王を通じ私が軍を掌握している限り、パロの安全は保たれるのだよ。
 ゴーラ軍に連行され私は捕虜となり、人質に取られた格好となるがね。
 イシュトヴァーンの自尊心は尊重するが、彼は催眠術で御する操り人形に過ぎない。
 ゴーラ王の方が実際には捕虜となり、魔道師軍団が付き従うから私の心配は無用だ。
 これこそ最も私に相応しい戦い方、ではないかと
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