第一章 天下統一編
第一話 聚楽第
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を見たら怖くなって泣くに違いない。
「殿下の指図に不服などあろうはずがありません」
俺は咄嗟に答えた。
「では、儂の言う通りにせよ。よいな」
秀吉は穏やかな口調だったが有無を言わさない目をしていた。俺は引き下がる以外に無かった。秀吉にどういう思惑があるか分からない。だが、ここで秀吉の心象を害すことは得策じゃない。秀吉は命令に逆らった者を執拗に弾圧したり殺したりする場合がある。ここは自重するしかない。
「殿下、生意気な物言い申し訳ございませんでした」
俺は声を大にし秀吉に対して平伏した。
「よいよい。分かればよいのじゃ。卯之助、期待しておるぞ」
俺が殊勝な態度で謝罪すると、秀吉は態度をころりと変えた。先程までの険悪な空気が嘘のようだ。
「殿下のご期待に応えられるよう粉骨砕身頑張らせていただきます」
俺は平伏したまま秀吉に言った。
「卯之助、通称を与えてやろう。藤四郎。小出藤四郎俊定と名乗るがいい」
「殿下、お礼申し上げます」
俺が顔を上げると秀吉と視線が合った。
「儂も若い時分は人材で随分と苦労した。お前の歳では大変だろうが、儂はそれだけ買っているということじゃ。それに、もうすぐこの国では戦は無くなる。そうなれば手柄を立てられる機会も減る。儂の身内に有能な者が少ない。虎之助、市松だけでは足下が心許ない。儂の言いたいことは分かるな」
秀吉は神妙な表情で俺の目を見ていた。俺は口を開こうとした。
「答えずともいい」
秀吉は俺が喋るのを遮った。
「卯之助、今日は有意義であった」
秀吉は表情を和らげると、好々爺な態度で俺に声をかけてきた。今の彼を見て三年後には凶悪な粛正を行うとは夢にも思えない。だが、必ず起きるはずだ。
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