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活動日誌9 わんだー・ぞーん! 1
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――後ずさりをしながら棚から離れるのだった。
 だけど、取ろうとしていた代物は棚の上に置かれているままだった。
 つまり、ことりさんの後ろに回した両手には何も持っていない。だから特に後ろに手を回す必要はない。
 なのに、わざわざ後ろに手を回してまで『何もしていなかったオーラ』を取り(つくろ)うとしている――そんな不自然な行動のことりさんを見ながら私には、表面には見えていない彼女の(あせ)りを感じていたのだった。
 たぶん亜里沙も気づいたんだろう。私と亜里沙は事情を知っているから、ことりさんに向けて苦笑いを浮かべていた。
 だけど、事情を把握(はあく)していない涼風は不思議がっていたのだった。

 ことりさんが取ろうとしていた代物(・・)
 それは先代部長のにこ先輩が、自分が卒業するからってアイドル研究部に置いていった1枚の色紙。アキバで伝説のカリスマメイド――ミナリンスキーさんのサイン色紙なのだった。
 ――まぁ、ことりさんのことなんだけどね?
 
 どうやら、お姉ちゃん達と3人でスクールアイドルを結成したばかりの頃。秋葉原を歩いていた時にメイド喫茶――メイドカフェ?
 とにかく、お店の人からアルバイトの誘いを受けたらしい。
 その頃の彼女は他の2人に引け目を感じていたのだと言う。
 そんな自分を変えたくて――可愛い衣装が嬉しくて?
 周りには内緒でアルバイトを始めたんだって。
 元来(がんらい)の物腰の柔らかさに加えて、普段の自分ではない自分を引き出せたのか――丁寧な接客と献身的(けんしんてき)な対応が評判を生んでいた。
 そして(またた)く間に口コミで話題になり、伝説(・・)とさえ言われるようになった。
 どう言う経緯(けいい)で書かれたサインなのかは知らないんだけど――
 にこ先輩は、ことりさんと知り合う前に色紙をオークションで入手していたらしい。
 そして、口コミだけの情報しか知らなかったからミナリンスキーさんが――自分の後輩(・・・・・)だったなんて知らなかったみたい。
 そんな中、 μ's に9人が揃った直後。とあるキッカケでことりさんがミナリンスキーさんだとお姉ちゃん達は知る。
 ――いや、アキバのカリスマメイドのことすら知らなかったんだけどね?
 そのことをキッカケに、絵里さんからの提案で μ's の新曲の作詞をことりさんにお願いしたらしい。
 普段は海未さんが担当している作詞。だけどコンセプトとして秋葉原を題材に書こうと考えていたから――アキバでメイドをしていた彼女が適任(てきにん)だったみたいなんだよ。
 ところが中々良い詞が思いつかない。途方(とほう)に暮れていた彼女に、手を差し伸べたお姉ちゃん。
 まぁ、一緒にメイドのアルバイトをしただけなんだけどね?
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