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魔弾の王と戦姫〜獅子と黒竜の輪廻曲〜
外伝
第裏幕『The.day.of.Felix』
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を変えたのは一体どれくらい前になるのだろうか。
弓は臆病者が使う武器。彼は物心つく前からそう父から叩き込まされた。
戦乱絶えぬ今の世の中では、蹴散らしたとした敵国の星の数だけ武勲が与えられる。しかし、ブリューヌ国内では、弓に関してはその武勲が認められることはない。
例え、敵将という金星をどれだけ射落としたとしてもだ。
半ばまで歩いていくと、背後からもう一人の男が近づいてくる。そして、耳元でこう告げる。

「閣下。例の来賓が……」

「わかっている。スティード」

壮年に差し掛かろうとしている偉丈夫の彼に蓄えられているフルセットの髭が、僅かにぶれた。この微妙な変化に気付けるのは彼の腹心であるスティードだけだ。
微動だにしない主君の仕草が示す意味は、おそらく彼しか知り得ないだろう。
彼のフルセットの髭は、伝説上の霊獣「獅子王―レグヌス」を模して蓄えられたものだ。何者にも屈しない、不屈の象徴と勇気の究極なる姿は、彼の幼少時代からのあこがれだった。
気高い生き方、誇り高き眼差し。
いつしか彼の髭は他者を圧倒するシンボルのようなものになっていた。竜という名の来賓と、テナルディエという獅子王が今まさに相対しようとしている。
そんな畏怖の象徴が、僅かにぶれたのだ。
それほどまでに、今回の『取引・ネゴシエーション』は緊迫を内包している。
いざ、扉のノブを開けようと震えながら手を掛ける。豪胆ともとれるテナルディエ侯爵のらしからぬ様子だ。
そして、扉は開かれた。
『弓』における互いの交渉が、今始まろうとしていた。

「冷静に話し合える場が持ててうれしい限りだ」

「そのようですね。閣下」

どのような人物であれ、恐慌で知られる閣下の前では畏怖してしまうのが常なのだが、今、目の前にいる来賓は全くおびえる様子を見せない。それどころか、穏やかな物腰で言葉を反した。
艶のない金色の長髪、切込みのある怪しげな目元、高貴な出を思わせるような、それでいて派手とも取れない整った衣装で身を包んでいる。
そんな来賓の態度に、テナルディエ侯爵は一定の評価を敷いた。
両者は煩わしい自己紹介を終えて、とっとと本題に入った。

「弓の取引だと?」

「そうです。ぜひとも我が国の弓を提供したく……」「お引き取り願おう。そして二度とその姿を見せるな」

速攻で決裂した。むろん、来賓もまたそんな侯爵の態度も予想していた。
ブリューヌにおいては、近接戦闘(インファイト)が高く評価されている。遠離戦闘(ガンファイト)はなぜか疎遠する傾向にあった。
ならば――百聞は一見にしかず――来賓は一つ提案を出した。

「そこで、我が国の『弓』をかけて白兵戦を行いたいと思いますが、如何でしょうか?」

「戦……だと?」

「はい。我が国の弓をぜひ
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