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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百八十二話 戦う毎に必らず殆うし
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ろ!」

シューマッハ准将がシュターデン大将を叱責したがシュターデン大将は平然としている。更に言い募ろうとしたシューマッハ准将を司令長官が押し留めた。

「私は卿と戦術論を話すつもりは有りません。忙しいのです」
「自信が無いのか、臆病者が!」
司令長官の苦笑が大きくなった、そして咳き込む。フィッツシモンズ中佐が慌てて背中をさすった。

「情けない姿だな、帝国軍人にあるまじき軟弱さだ。それで宇宙艦隊司令長官が務まるのか!」
「貴様! 司令長官の寛容に付け込むか、理屈倒れが」

ワルトハイム参謀長が激高するが、司令長官が左手を上げて制した。そして哀れむような口調で話し始めた。

「彼を知りて己を知れば、百戦して殆うからず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必らず殆うし」
「……」

「シュターデン大将、卿は自分の艦隊がどのようなものか知らなかった。だから統率に失敗した。私がどういう人間か知らなかった。だから出撃すると思わなかった。“戦う毎に必らず殆うし” 卿は戦術論以前に軍を指揮する資格が無かったということです」
「……」

「敗軍の将は兵を語らず、これ以上見苦しい真似をしないでください。卿の指揮で死んでいった者達が哀れです」
「……」



五時間後、ヴァレンシュタイン艦隊は残る一つの艦隊、ラートブルフ男爵率いる一万隻の艦隊を急襲した。不意を衝かれたラートブルフ男爵は開戦後二時間で降伏した。あっけない勝利だった。

今回の司令長官の負傷はラインハルト様にとってチャンスだった。負傷して動けない司令長官に対して辺境で武勲を挙げたラインハルト様。周囲のラインハルト様に対する認識も変わったはずだ。

だが司令長官は二倍の敵をあっという間に葬り去った。細かな戦術ではない、ただ艦隊を高速で移動させるだけで司令長官は敵を破った。もう誰も司令長官の戦術能力に疑問を持つ人間は居ないだろう。司令長官に対する諸提督の信頼は以前にも増して厚くなるに違いない。

やはり危険だ、司令長官はラインハルト様にとって危険すぎる。司令長官が居る限りラインハルト様は前に進めないだろう。そして司令長官はいつかラインハルト様に対する遠慮を捨てるようになる。その前に何とかしなくてはいけない……。




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