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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百八十二話 戦う毎に必らず殆うし
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クリンガー、よくもあの小僧と組んで私をコケにしてくれたな。第三次ティアマト会戦は私の指揮で行われるはずだったのだ。そうなればあのような中途半端な勝利ではなく完全な勝利を収めることも出来たのだ。お前達が帝国の完勝を阻んだ、お前達こそ獅子身中の虫だ、絶対に許さん!

「閣下、後方の駆逐艦ヴェルスより連絡です。七時半の方角に艦影が見えるとのことです。識別、不明」
オペレータの緊張した声が聞こえた。

七時半? 識別不明? シェッツラー子爵か? 心配させおって一体何をしているのだ。大体こんなに近づいては分進合撃の意味が無いではないか、これだから貴族の馬鹿息子は始末に終えんのだ。

「オペレータ、通信を送れ。所定の位置に戻れと」
オペレータが訝しげな表情をした。馬鹿が、この位置に敵が居るわけが無かろう。ヴァレンシュタインは前方に、メルカッツ提督は二日は後の距離に居るはずだ。となればシェッツラー子爵以外に誰が居ると言うのだ、使えん奴め……。睨みつけると顔を強張らせて下を向いた。

「はっ、通信を送ります」
「閣下、敵という可能性は無いでしょうか」
副官のディートル大尉が問いかけてきた。此処にも馬鹿がいるのかと思うとうんざりした。

「一体何処から湧いて出たと言うのだ。敵は前方とはるか後方だ、あれが敵など有り得ん」
「……」

ディートル大尉は不服そうな表情をしている。使えん奴だ、おまけに反抗的なところが有る。私の副官としては不適格だな、いずれ更迭して新しい副官を配属してもらおう。

「閣下、通信が妨害されています!」
「!」
緊張したオペレータの声が聞こえた。妨害? どういうことだ、何故妨害などする。

「左後背より敵襲!」
悲鳴のようなオペレータの警告が艦橋に響いた。その声と同時に艦に衝撃が走る。直撃ではない、至近弾か。

「うろたえるな! 全艦、迎撃せよ」
どういうことだ、何故敵がそこに居る。いや本当に敵なのか、シェッツラー子爵が誤ってこちらを攻撃しているのではないのか、だとしたら……。

「敵を特定しろ、シェッツラー子爵が誤ってこちらを攻撃している可能性がある。通信兵、あの艦隊に連絡をし続けるのだ!」
「はっ」

「馬鹿が、敵と味方の区別もつかんのか、シェッツラー子爵」
いずれこの責任は取ってもらうぞ。味方殺しなど、クライストとヴァルテンベルクだけで十分だ!

「閣下、あれは敵ではないでしょうか?」
ディートル大尉が表情を強張らせている。
「同じことを何度も言わせるな、大尉。あれが敵など有り得ん、第一あれが敵ならシェッツラー子爵の艦隊はどうしたのだ、あれは左後方から来たのだぞ、シェッツラー子爵に気付かれずに来たとでも言うのか」

「シェッツラー子爵の艦隊は既に敗退したのではありませんか」
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