第10話『民を護る為に〜ティグルの新たなる出発』
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…」
ティッタは頬を膨らませていた。凱に対して小さな侍女は些細な愚痴をこぼしていた。頭が痛いのはリムとて同感だった。
ちなみに、ティグル達は酒気飲料を自制している。明日の出立が早い為だ。酒気に酔って馬を操れないでは愚の骨頂だからだ。
「いいじゃないか。ティッタ」
「こうして、皆の楽しい笑い声が戻ってきたんだから」
果汁水を飲み干して、ティグルは口を開く。
「ティッタ。しばらく留守にする。俺が戻ってくるまでの間、待っていてくれるか?」
そのお願いに、ティッタの表情は僅かに不安の色を募らせる。
「ティグル様、あたしもついていきます」
「ティッタがいなくなったら、誰がガイさんの世話をするんだ?」
それを言われると、ティッタは勢いを失速していく。しゅわしゅわと表情をしぼんでいくティッタを見て、ティグルは彼女の頭にポンと優しく手を乗せた。
「何もティッタが心配することはないさ」
「心配します!だって……これからはずっと、ティグル様の生命に関わることなんですよ!」
真剣な表情で、ティッタは自分の主様を問い詰める。
「俺は今すごく幸せだ。こんなに多くの人に支えられて、みんなの想いに支えられて」
「ティグル様……」
「俺の心ひとつ次第でアルサスの運命が決まる」
生きて帰る場所がある。帰りたい場所がある。
自分一人が犠牲になれば、アルサスを守れるほど、今の時世は甘くない。
勇者だろうが、貴族だろうが、戦姫だろうが、名の馳せた戦士であろうが、所詮は一人の人間。
この内乱で一人の若者が命を落とせば、一人の侍女は確実に不幸になる。ティグルは諭した。凱が直接言うのではなく、自分自身で考えさせたかったのだろう。
――翌朝、太陽が出会いがしらに上る少し前の事――
「ティグルヴルムド卿。準備はいいですね」
「ああ。出発しよう」
皆が昨日の酒盛りで寝静まっている。空を見上げると、昨日の盛り上がりの余韻が蘇る。
そう言って、ティグルとリムは馬の腹を蹴ろうとしたとき、ふと後ろに誰かの気配を感じた。
「ティグル様!」
後ろには、ティッタがいた。
若者は顔だけ振り向かせ、優しく微笑んではティッタに笑みを返す。
これから待ち受ける戦いの決意を胸に、ティグルとリムはヴォージュ山脈の向こう側へ走らせた。
目的地はキキーモラの館。
ティグルヴルムド=ヴォルンの新たな戦いの舞台が待っている。
太陽を背に受ける若者の姿を、ティッタは笑顔で見送った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数日後、オルミュッツ公国でリュドミラ=ルリエがブリューヌ内乱において中立を示した頃、アルサスでは異変が起こっていた。
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