第10話『民を護る為に〜ティグルの新たなる出発』
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注目の視線はもはや、凱が独り占めしていた。
「このセレスタの町を見ろ!ヴォージュ山脈……いや!心の国境を越えて、アルサスとライトメリッツはこうして酒を飲みかわすまで仲良くなっている!奥さん!お姉さん!全員に好きな飲み物を注いでくれ!この一杯は俺のツケだ!」
「ガイ殿!払う伝手はあるんですかい!?」
バートランが闊達に笑う。一介の流浪者のどこに、これだけの多人数を飲ませるだけの金があるのかと、冗談交じりに聞いてみた。
「大丈夫!ティグルが俺の借金を肩代わりしてくれる!」
どっと笑いの嵐が巻き起こる。
とんでもない責任転化にティグルは性悪な笑みを浮かべながら反撃する。
「それなら俺がエレンに対して背負っている借金も肩代わりしてくださいよ!?」
さらにティグルが混ぜ返す。
「それでティグルが無事にアルサスへ帰ってきてくれるなら安いもんだぜ!」
挑発的に凱へ問いてみたが、熱い言葉を添えてあっさりと返された。凱の言葉に会場は水を撃ったように静まり返った。
もちろんティグルが背負っている借金額を凱は知らない。例え金額が天文学的でもそれ以上大切なものはないという事実だったら、凱は知っているつもりだ。
ティグルは開いた口が塞がらなかった。そんな呆気にとられたティグルを見て、凱は口調を和らげて、なだめるようにティグルへ語り掛ける。
「ティグル。自分の命の価値についてよく考えて見てくれ。俺は君の無事を……いや、俺だけじゃない。この場にいるみんながキミの無事を祈っている」
誠実な瞳に心を振るえたティグルは、瞳をも厚く震わせて凱を見据えている。
少し空気が感動に包まれつつあるが、ここでうまく切り替えていく。
「この一杯に感謝を込めて!天へ掲げてくれ!」
一同は飲み物を月の映える空へ高く掲げる。
「ティグルヴルムド=ヴォルンに!エレオノーラ=ヴィルターリアに乾杯だ!二人は立場こそ違うが、民を気にかけることに関しては、同じ想いを抱いているぜ!」
ベタ褒めされたティグルと言えば、照れ隠して顔を若干うつむせている。凱のあおり矜持に酒場の空気は逸脱した盛り上がりを見せる。
皆はジョッキを掲げた。
「両者の力となることを願って、こいつを飲み干してくれ!勇気ある誓いと共に乾杯!」
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
ブリューヌとジスタート、両者の共通する酒杯の儀礼を交わし、次々と杯がカラカラとなっていく。皆のいい飲みっぷりは、これから立ち向かう境遇に対して、いい区切りとなってくれるはずだ。
酒場は先ほどと打って変わって、一気に水が沸騰したかのような盛り上がりを見せた。
「もう!ガイさんったら!盛り上げすぎです!みなさんあまりハメを外さなきゃいいんですけど…
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