第10話『民を護る為に〜ティグルの新たなる出発』
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子がどうなるかも、分からなかったんだと思う」
そう推測する凱の思慮に、ティグルは成るほどと息を吐き、リムはこくりとうなずき同意する。
ブリューヌへの許可なき出兵。その顛末を報告する為に、エレンはジスタートの王都シレジアへ向かった。
国王たる下した言葉の詳細をティグルに伝える必要がある。今後の展開を見据えての行動なのだろう。
「そうですね。急使が訪れた時期を見て、エレオノーラ様はおそらくキキーモラの館へ着く頃合いかと」
ティグルが口をへの字に曲げる。長年の狩りで培った勘に何かひっかかるものを見つけた時に出る彼の癖だ。確かティッタがそう言っていた。
「俺、ちょっとその辺を散歩してくるよ」
凱は扉を開いて出ていこうとする。
色々と悩んだ末、ティグルは重々しく口を開く。
「こういう時、ティッタに何て言えばいいんですか。ガイさん」
その口調はどこか弱々しかった。
テナルディエ軍がアルサスを襲撃したとき、ティッタはただ一人避難せず、ティグルの屋敷でずっと待ち続けていたのだ。
心の半分は、危ないことをしたティッタに叱りたくて……もう半分は、ティッタの健気な顔を見たら、なぜかほっとして……
だからこそ、彼女の存在の儚さがティグルを支えるものであり、そして崩すものでもあったのだ。
「ティグルが変なところへ行かなきゃ、ティッタへの説得も必要ないじゃないか」
そっと意地悪そうに微笑んで凱は扉を閉める。そう答える凱の気持ちを、ティグルには少しだけ分かっていた。
獅子王凱。この変わった名前を持つ青年は、ディナント戦以降においてティッタの置かれた境遇を間近で見てきた。はしばみ色の健気な瞳に涙を浮かべ、訪れる現実に悲しみの嗚咽を漏らしたときのティッタの表情は、凱のまぶたの裏に焼き付いている。
この若者がどこかへ赴けば、必ずティッタは領主の後ろ姿を追いかける。セレスタの町が襲われたときのように――危険を顧みず。
退出した青年の後ろ姿を見送った後、リムは先ほど凱の評釈に対する感想を漏らす。
「ガイさんは、よくティッタを見ていますね」
当然、凱もティグルの置かれた環境を知らないわけじゃない。アルサスへの帰還を果たしたとはいえ、ディナント戦から始まった捕虜であり、アルサスを護る為にライトメリッツから兵を借り受けた顧主であり、父から使命と責務を受け継いだ領主である。
本当なら凱とてこんなことを言いたくない。しかし、これ以上ティッタへの不安を募らせたくないという気持ちのほうが優先されていたのだ。
ティグルにとってティッタが妹のような存在なら、凱はガスパール兄さんのように叱咤激励してくれる『兄』のような存在だ。優しく、柔らかい言葉遣いでも、その重みが断然違う。
「あの人は、あまりティッタに心配か
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