第9話『戦姫の所作〜竜具を介して心に問う』
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ンは出立の準備を整える。さらにその上を、顔を隠せる毛皮のマントと薄い麻布の服で覆う。
周囲の建造物とほぼ同じ色の麻布なら、それなりの擬態彩色となるのだ。
防諜設備を備えた噴水前でエレンが話を切り出したことは、もちろん意味のないことではない。実はもう一つ理由がある。
用意した果汁水を自然に持ち上げて、噴水設備の死角部をグラスの光沢面で確認したところ、どうも数人の尾行集団が張り付いていたようだ。それに気づいたエレンは、あえてそいつらに聞かせるつもりでソフィーとの対談に臨んだ。
迂闊に周りを見回してしまえば余計に警戒させて、奴らの行方を掴めなくなる。こういう時、所在を掴んでさえいれば対処はそれほど難しくはない。結果、泳がせることにした。
(一体誰の差し金だ?それとも……まあいい。私を追い回す為にこき使われるとは、ご苦労な事だな)
この仕業はだれのものかは差し置いて――
エレンはこれ見よがしに、王宮の長大な廊下を幾重にも交わし、円柱の錯覚を巧みに利用しながら、尾行集団との鬼ごっこを満喫した。
そして、二手に分かれた集団を時間差で巻いてしまうと、彼ら追跡者達の慌てぶりを王宮の城壁から見下ろして楽しんだ。
「先日、ライトメリッツに紛れ込んだ暗殺者より楽しめたな……しかし」
ただ一つ、エレンに疑問符が浮かぶ。
「尾行集団……その割には動く人数が少なすぎる。テナルディエ直属の刺客ではないな。だとすると……諜報部の連中か、それとも……」
エレンは王宮門を抜けると、一般民を装って、走ってくる馬車に手を上げた。広大な王都シレジアでは誰もが有料の馬車で移動する。エレンは馬車に乗り込んだ。
動乱が、待っている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エレンと対談を終えて、ソフィーは王宮の長い廊下を一人で歩いていた。
「シシオウ=ガイ。エレンのいう事が本当なら、彼はかつて覇王と呼ばれたゼフィーリア女王のような存在」
戦姫たるエレンを言わしめて、あれほど警戒させなんてね。とも思わざるを得ない。
「眠れる獅子……まさかね」
眠れる獅子の逸話は、何も人物に限った話ではない。そのような国と偉人が歴史上、異国に実在していたからだ。
ソフィーは視線をうつぶせて、アスヴァール王国の歴史を思い出す。
大陸初の女王ゼフィーリア。
建国時代より何世代か後、アスヴァールはカディス王国という侵略被害を受けていた。訪れた国家滅亡の渦中から剣を取り、獅子奮迅と思わせる活躍を見せ、カディス王国軍を撃退したばかりか、攻守を逆転させて敵国の本土に侵撃するに至った。結果、ゼフィーリアは島と陸の領土を得たという偉業を達成した。
カディス王国はゼフィーリアという獅子と、そしてアスヴァールという獅子
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