57.第七地獄・四聖諦界
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そも、黒竜は音速以上の速度にさえ反応している事を加味すれば、あれに命中させられる飛び道具は雷か光の類でしかありえない。
正確には不可能ではない。『万象変異』――忌々しい、来歴を考えると心底忌々しいこの魔法を使えば、雷に化けることなど訳はない。だが、『万象変異』は『雷になったら解除するまでなったっきり』だ。黒竜に致命傷を与えるだけのアンペアを出すのにどれだけの魔力を喰らうのか分かったものではないし、黒竜の鱗には通常ではありえない密度の組成、魔力、性質が内包されている。
リージュのようにその情報量を上回る精霊の加護などの性質を携えた魔法ならいざ知らず、今のオーネストの力で黒竜の鱗を貫通する魔法など数度発動させるのが関の山。そして黒竜がたった数度の雷で撃破出来るほどなまっちょろい存在であるなど楽天家の考えだ。
ならば取るべきは黒竜の三次元的機動と同質の力、すなわち飛行能力。
『飛翔靴』のように道具を利用して飛ぶか、或いは風の類を操る魔法で疑似的に飛ぶか――まず『飛翔靴』はありえない。何故ならあの道具が生み出す推力では圧倒的に速度不足だし、そもそも持っていない。ならば魔法か。『万象変異』をより精密に操作するのならば、先ほどの雷の案に依らずして飛ぶだけの小細工は出来るだろう。
――実行したことは、ないが。
こんな言い方をすればあの神はさらに鬱陶しくなるだろうが、『万象変異』はこれまでヘファイストスの為だけにしか使ったことがない。それに、戦闘で使い勝手のいい技とも言えなかった――こと対人戦では、特に。
いや、それはある種の言い訳だろう。使おうと思えば使える場面はあった筈だ。なのにオーネストはごく自然にこの魔法を使うという選択肢を頭の中から追いやっていた。
これを使えば、『――――』を頼ろうとしたようで……あの日の雨に打たれた『――――』の最期の行動を自分自身が肯定してしまったようで……それからずっと続けた破滅的なオーネスト・ライアーとしての生き方の全てを自分自身が裏切ってしまうようで……あの瞬間に取り残された一人の餓鬼が、厭だ厭だと叫んでいるかのようだった。
『お前、今回は『勝つ気』で行けよ?』
不意に、一人の男の言葉が思い起こされる。
馬鹿で不格好で頭が悪くて素人丸出しでしつこいようでしつこくなくて足だけ無駄に長くて時々役に立って時々迷惑をかけてきて、どこまでも図々しいくせに自分に対してだけ無駄に察しが良かったあの馬鹿の――今、力なくぐったりしている大間抜けの言葉だ。
勝つ気――自分は勝つ気でなかったのだろうか、と自問する。帰ってきた答えは、肯定だった。目の前に現れる事実という残酷な事象の連続に対して、自分の意識だけを頼りに真
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