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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
57.第七地獄・四聖諦界
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も変わらないいつもの笑みを、俺に向けた。
 どうだ、お前から言質を取ってやったぜ。
 そんな声が聞こえてもつられて笑うほど、透き通る笑みだった。

「難しい話でもないんだよ。お前が捻くれまくってるからややこしくなってるだけで、答えはガキでも分かる簡単なものなんだ。お前は、本当は踏み出すだけでいいのにな」
「ちっ………お前に知ってる知らないの話で負けたのは初めてだ。俺には……分からんよ」

 そういえば、ヘファイストスにも似たようなことを言われた気がする。
 踏み出すといったって、過去から途切れた俺の希望はどこへ向かう。
 あの時に置いて行かれた俺は、今更何を望んで歩き出せばいいというんだ。
 
「分からんなら、分かるまで、付き合ってやらんことも………ない、けど?」

 鎖の結界の再生が止まった。もうこれは引き裂かれるだけの障害物だ。黒竜の爪が結界内に突き刺され、外を蠢く黒い巨体の影が見えた。維持する力は、もう注がれない。

「あ、あらら………頭に血が上りすぎて、ちょっと、今すぐ付き合うのは無理、かも…………」

 そんな軽口をたたくアズの体は、次第に力を失ったように傾いて――オーネストの体に伸し掛かる形で止まった。死んではいない。ただ、魂を削りすぎてもう声も出ない程に消耗しきっている。

「まったく、『俺とお前なら倒せる』って話だったのに……先にくたばりやがった。信じられねぇ」
『?? ??――?? ?????――』
「………悪いが何を言ってるか分からん」

 オーネストの体が動かなくなっても尚存在する『死望忌願』の口から何か音が漏れたが、流石に意味は読み取れなかった。ただ、これがここにあるという事は、アズライールの魂は消滅してはいないということだ。

 鎖の結界が完全に破壊され、滅気を放つ天黒竜の邪顔が再び目に映った。
 まだ、アズが戦えないことには気づいていないらしい。もとより守る余裕もない。

「手間かけさせやがって、この…………まぁ、いい。お前の口から答えを聞くまでは俺がどうにかするさ」

 自分の人の好さに眩暈がしそうだと思うのは、俺の自惚れ過ぎだろうか。
 どうやら俺は、ここでアズの身を守りながら黒竜を迎撃するまったく別の方法を考えなければならないらしい。意識を、集中力を加速させ、黒竜がアクションに移る前に戦略の海に飛び込む。


 空を飛ぶ敵を殺すには通常ならば飛び道具が有効だ。しかし黒竜の機動力を相手にすると、どうしても飛び道具を発射してから到達するまでに致命的なタイムロスが生まれ、容易に回避されてしまう。ならば必然的に、取れる手段は通常ではないものに限られる。

 現状、発射から着弾までの時間を更に縮めて命中させるような武器も魔法も技も、オーネストは持ち合わせていない。
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