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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
57.第七地獄・四聖諦界
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気にせず、ただ真っ直ぐにオーネストを見ていた。

「俺は確か言った筈なんだよなぁ、真面目に戦えってさ。勝つ気で行けって。それが、なんだ。さっきの知性の欠片も感じられない『おみごと』な戦いっぷりは何だよ師匠サマよぉ?」

 どこかこの状況を俯瞰して眺める自分が、「ああ、今までにない程キレてるな」と他人事のように呟く。師匠サマ――確かに俺はアズに戦い方を教えたが、こんな風に、しかも嫌味をたっぷり塗りたくって告げられたのは初めての経験だった。
 思えば、今までこの方こいつと正面切って喧嘩したことなど碌にない。なかった訳ではないが、数少ないそれは俺の行動に対してアズが「止めようとする」ものだ。あくまでも現状からの逸脱を抑える程度で、俺の行動そのものを否定したことなどない。

 アズという男はいつもそうだ。自分から他人の生き方や方法を否定することはせず、多様性という名の曖昧な世界にふわふわと浮きながら自分の通る道を決めている。だからこそ、俺とアズは同じ屋敷に住んで行動できていたのだろう。誰に対しても寛容で、誰に対しても本質的な干渉はしようとしない、どこか享楽で無責任な傍観者。

 だが、今日のアズはオーネストの行動を、考えを「変えようとしている」。
 オーネスト・ライアーを否定しようとしている。
 その事実が、オーネストの精神を一気に目の前の事実へと引き戻した。

 鎖の結界が、また一つ大きく抉られる。アズの手が一瞬だけ震え、額から汗が垂れる。
 鎖は魂の一部。あれだけ膨大な量を常に展開し続け、破壊され続けているアズの魂は『徹魂弾』をひたすら出鱈目に放ち続けるほどの負担をかけているのだろう。
 それでも、アズはこんな無茶をしてまでこの空間を作り出してオーネストに激昂することを選んだ。
 これは――「死んでもやる」意志だ。

「俺は、お前のいい加減に人をあしらう所もだれに対しても傍若無人なところも自分勝手で時々餓鬼っぽい所も嫌がらせ大好きなところも意地っ張りが過ぎて人格捻じれ曲がったところもよぉ〜く見てた。とてもじゃねえが褒められたもんじゃねえクソッタレな人間だ。だがな、それでも俺がお前と一緒にいて平気だったのはなんでだと思う?」
「……知るかよ」
「お前が、人に対して決して嘘や裏切りはしなかったからだ」

 オーネスト・ライアー。偽りに塗れた姿になり果てて尚、己の正道を選び続ける道。
 それが、俺の名前に込められた唯一の意味。

「そいつに出会い、そいつの考えを聞き、そして下した判断にお前は決して自分で言い訳もしなければ忘れることもない。判断を間違えたときは、間違えたことを口に出せる。尊敬したよ。昼行燈の俺とは違う。お前がそうありたいという意識が一番伝わってきた」

 鎖の結界が、また揺らぐ。
 魂を欠損しすぎた
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