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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
57.第七地獄・四聖諦界
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 時折空中から降り注ぐ空気のギロチンをステップで躱したアズは、壁に鎖を突き刺してその身を空中に投げ出した。

(――わたしは、アズライールにはなれん。なれんから、わたしはリージュとして成せるを成す)

 氷を束ね、熱を奪い、壁に出鱈目に命中して足場の代わりとなる氷。
 今の自分ならば難しい話ではない。この階層に降りる際も氷の螺旋階段を伝って来た。
 二人の道化が踊る極上の舞台を思い浮かべ――そもそも自分の氷が外れたのが足場のきっかけだったことを思い出し、「何が幸いか分からないものだ」と苦笑した。

氷造(アイシスティム)舞踏する天使(アンジェルスショルム)ッ!!」

 人々を魅了するかのように暗雲を裂いて舞い降りる救世主――と呼ぶには余りにも異質な存在が暴れる盤上を作る為に、天に掲げたリージュの手に収束した獄氷が天使の環のように輪転した。



(――氷。つめ、たい。力――人ノ抱エルには早き、領域――?おレは、なにを……)

 3人の戦いからも黒竜からも感知されない瓦礫の中で。
 全身を引き裂かれたまま横たわる男の意識が、微かに、しかしはっきりと、その感覚を捉えた。
 しかし、男はまるで全身を縛られたかのように――まだ、動かない。



 = =



 意識を超克した破滅的な衝動が、引き千切れそうな体を暴れ狂わせる。
 こちらが加速して黒竜に向かえば向かうほど、奴の鱗と肉が剥げていく。しかし剥げた肉は魔物特有の再生能力で瞬時に復活し、こちらが空中で直進しか出来ないことを見抜いた黒竜は回避と同時に迎撃を開始した。

 接触の度、真空の刃や刺突、骨をも灰燼に帰す灼熱の焔がこの身を焼く。
 ぶつかる度、俺が俺であるという証が一つずつ欠けてゆく。
 それでも――この剣に込めた力が止まらない。

「お゛お゛ああああああああああああああッッッ!!!」
『グルルル………ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 ――ィィィィィィイイイイイッ!!!と、自分の背中の後ろから音が追いかけてくる。

 ヘファイストスの剣と黒竜の角が衝突し、衝撃波の爆弾が目の前で弾けた。

 目が見えない。衝撃で潰れたのだろう。しかし、もう両目を抉り取られても奴の居場所が分かる。
 耳が聞こえない。衝撃で頭がぐらぐらと揺れて耳から熱い液体が零れ落ち、頭の奥に刺すような痛みが走る。しかしもう音など聞こえなくともいい。痛みとは肉体の安全装置だ。無視する。まるでそれが自然なことであるかのように、気が付けば激突していた壁から這い出て、また加速するように壁を蹴り潰す。

 体が砕けるほどに、本能を越えた何かが際限なく肉体に力を注ぎ込む。
 黒竜の迎撃に押し返されたかと思えば、突撃に籠る破滅もまた俺
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