57.第七地獄・四聖諦界
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痕跡が残り、自慢の黒いコートにも赤い滝が描かれている。顔色も良くはない。明らかに消耗している。だのに自分の回復薬を他人に押し付けて、自分はあの音速を越えた化け物の戦いに乱入しますという。正気の沙汰ではありえない。
「アズライール・チェンバレット!!貴様は………貴様は本当に今のアキくんに声が届くと思っているのかッ!?アキくんは何もかも捨てようとしているんだぞ!!自分さえもッ!!」
「捨てる?無理無理。あいつ自分で『人間はしょせん人間にしかなれない』って言ってたし、口であーだこーだ言ってるくせに自分が一番過去に執着してる矛盾満載人間だよ?だいたいそれが出来ないから8年もこうしてアホみたいに冒険者続けてんでしょーが。アホなんだよあいつは」
まるで友達の悪口をぼやくようにつらつらと、アズはリージュにそう告げた。
つまりこの男は、この世がどれほど乱れようと自分が死に近づこうと、オーネストの前では友達なのだ。どんなに変貌しても、自分の手に届かなくなっても、どこまでもどこまでも友達の域から出しはしないのだ。
それは――それはオーネストの近くにいた誰もがやろうとして、結局辿り着けずに諦めた領域なのに。リージュが一番取り戻したかった関係なのに。この男はまるで息をするかのように、自分の中にある自分を変えることをしないまま。表と裏が完全に一致した、不変の心。
例え明日世界が滅ぶとしても、いつも通りのオーネストの隣ではいつも通りこの男がいるのだろう。
なんとはなしに、そう思った。悔しいけれど、確かに思った。
「貴様は……例え自分が死ぬとしても、ずっと『そう』なのか?」
「そうさな。君の言葉の真意はイマイチわからんけど、俺はどこまでも俺だよ。このまま生き、このまま年を重ね、このまま死ぬる。むしろ俺が俺じゃないままくたばる方がよっぽど恐ろしい。だからこそ、あのアホが自分を見失ってるんならそれを修正して現実見せてやるのが友達の務めじゃない?」
「自分が自分であるのなら、明日に死すとも後悔なし………アキくんは、そういえばそんな男だったな」
なら、自分は何だ。リージュ・ディアマンテという女は何を望み、どうあるべきか。
そんなものは決まっている。『わたしはわたしの意志にだけ従っていればいい』。
それが、やりたいことをやるという意味の本質なのだから。
「………リージュちゃん、ちょっと壁に突き刺さったあの氷柱増やしてくんない?オーネストが足場に使ってるもんだからどんどん崩れ去って……というかあの氷、黒竜の風浴びても砕けない強度なんだな」
「存在を停止させる性質を持った氷だ。強度の問題ではなくそのような性質がある。割っている黒竜とアキくんが異常なだけだ……わたしは空を飛べぬ。あとは任せた」
「任されました――よっとぉ!!」
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