第6話『想いを勇気に〜ティグルの選んだ道』
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隣をはずして、給仕作業に戻っていった。
あとは、俺の心と次第……か
ティグルヴルムド。彼は道を選ばなければならない。
選択肢は、もう出ているではないか。
時間を見据えて、決意を確固たるものにした時だった。
「ティグル♪」
そして不意に、後ろからエレンが顔を覗かせてきた。
「うわ!驚いたな。誰かと思えば君か。エレン」
嬉しそうに、にやっと笑顔を浮かべ、彼女は赤髪の若者の顔を抱え込んだ。女性特有の甘い息を感じられるほどに近い。
「俺の顔に何かついているのか?エレン」
「いや、逆だな」
「なんだか浮かない顔をしていたが、今は随分と落ち着いて見える。何があったかは知らないが、憑き物が落ちたようだな」
エレンには見抜かれていた。
確かに、これから本格的に訪れるテナルディエ公爵との戦いに、恐怖に憑かれていた。
対してティグルは、地から強い笑顔を浮かべて返した。
「ああ、俺ならもう大丈夫だ。それよりもエレン。どうしてこっちへ?」
遠くの光景に、エレンは指さした。紅い瞳の視界には、凱がいた。
「あの男……シシオウ=ガイといったかな?少しばかり手合わせしたかったが」「エレオノーラ様」
本気ともにつかない冗談に、注意が入る。いつしかリムも来ていた。以前「いっそアルサスを攻めとるか」とも言っていた事がある。
こういう好戦的な冗談で周囲を振り回す、我が主の苦労に絶えないリムであった。
ただ、手合わせしたいというのは、半分冗談で半分本気といったところだ。
ティグルは話があるならいけばいいじゃないか?と言おうとしたが、思い当たる節を見つけて口を止める。
「流石に私も子供の海を掻き分けて楽しい時を邪魔するほど野暮ではない。明日にでも聞くとしよう」
どうやって敵を倒していった?たった一人で大軍に飛び込んで?どのような戦術で?
傭兵あがりのエレンにとって、彼の勇戦振りは非常に興味がある。
――反面、警戒もしている――
彼は一体何者なのだ?
容姿、風貌、どれをとっても、どこの国にも当てはまらない。
ムオジネル?違う。ムオジネル人なら、褐色のいい肌をしているはずだ。
ブリューヌ?違う。セレスタの住民の話が本当なら、それほどの腕前を持つ傭兵なら、たとえ大金を払ってでも、召し抱えようとするだろう。我が国の王のように、戦姫を恐れるようなバカでなければ。
ジスタート?違う。英雄譚や神話から飛び出たような人物が、何故、今まで噂にすらならなかったのだ?
ザクスタンは?アスヴァールは?ヤーファは?
ふらっとやってきて、アルサスに近づく危険から民を守る。気前がいいという以前に、人が良すぎる。
一体……何を対価に動いている?
ふいに、エレンの凱に対する印象が、そうだった。
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