第5話『蘇る魔弾!解き放たれた女神の意志!』
[3/21]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
誓った、あの日を思い返して幾星霜。
悲しみで乾ききっていた唇から紡がれた言葉は、決意の表明。
決意が、父の他界によって凍てついた心を溶かし出す。
想いが迸り、朱い瞳から涙があふれる。
頬を伝う涙の熱さが、アルサスとその領民への想いが強いことを自覚させる。
――守りたい。アルサスを。俺達の居場所を。俺の民を――
視界全体を覆った涙滴の向こうで、二人の人影が微笑んだ。
人影は光を浴びて、かけがえのない大切な人をティグルの瞳に映し出す。
――あたしは、どこまでもティグル様についていきます!――
傍らには、ティッタがいた。
――ウルス様。坊ちゃんは懸命に、立派にやっておられます!――
隣には、バートランがいた。
今より俺はアルサスの領主、ティグルヴルムド=ヴォルン。
父から受け継いだアルサス。その領主となった14歳の頃の記憶である。
『蘇る魔弾!解き放たれた女神の意志!』
『一年前・ブリューヌ・アニエス渓谷』
熱を帯びた風を除けば、そこはほぼ湿度のない乾燥地帯。
様々な大小の砂や直射日光が皮膚を傷め、体内の水分は外気への湿度を保とうとして、血液を循環させる。さらに、体表にこびり付いた僅かな砂屑が言いようのない不快感となって、ティグルヴルムド=ヴォルンの全身を苛んだ。
(不快感……?)
思わず、ティグルは空を見上げた。山や森に狩りへ赴くときとは違う感想が、彼の頭に過れた。
明らかに、他の兵士たちがしかめっ面で不快感を示しているのに、この赤い髪の若者は、ほんのわずかな不快しか感じておらず、表面上は涼し気といったところだ。それが妙におかしかった。
ティグルヴルムド=ヴォルン。親しいモノにはティグルと呼ばせている彼が、アルサスの領主になってまだ間もない頃である。
数年前、先代アルサスの領主、ウルス=ヴォルンと母と共に見つめた緑色に広がる畑の丘の上で、幼いティグルはアルサスに住む、掛け替えのない大切な人々を守ることを決意した。
それから母が、そして父が崩御した後、幼い頃の決意はやがて果たすべき使命へと変わった。もともと、統治の才に恵まれていたわけではないが、アルサスの治世がうまく円環を継続して行けたのは、ティッタやバートラン、マスハスといった、ティグルを影から支える存在がいてくれたからだ。何よりアルサスを、そこに住む人々を守りたいという強い想いが、大きな加速となったからに違いあるまい。
今、その彼は、テナルディエ公爵を指揮官とする軍の一部に組み込まれている。側近のバートランも一緒だ。それも一番後方に。
軍と呼ぶにはあまりにも程遠く、小隊や班といったほうがなじみやすい。
なぜ、ブリューヌで侮蔑の対象になっている弓しか使えない自分を、テナルディエ公
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ