第5話『蘇る魔弾!解き放たれた女神の意志!』
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グルは装うように苦笑いを浮かべる。
「ティグル様?この人たちは一体?」
視界の隅々まで、首をまわして見渡したティッタは、不安そうに尋ねる。
「ああ、この人たちは……」ティグルの説明が始まる時、ティグルの眼球に「ある」不遜物を捕える。
半瞬、樹木の物陰から一矢が飛来。ティッタに向けて放射された矢じりはティグルの左手によって捕まれ阻止された。
反転、自身の弓につがえて、隠れていた不遜物に向けて放つ。
長年の狩りで培った『弾道予測線』通りに、矢は敵の急所にささり、ジスタート兵から感嘆の声が上がった。
「痛っ……!!」
時間差で痛覚に襲われたティグルは、先ほど矢を受け止めた左手を見やる。素手で受け止めた影響だろう、矢を掴んだときについたと思われる傷が横一文字に広がっており、出血していた。
すかさず、ティッタはスカートの絹部を破り、それをティグルの手にきつめに巻く。
「怪我をしたのか?」「問題ない。やれる」
ティグルの即答にエレンは笑みを浮かべた。
痛みなど、それを超える意志と覚悟で以て耐えればいい。今、ティグルの心中にあるのは、アルサスを蹂躙した蛮族に対する怒りだった。
心の弓弦は、はち切れる寸前まで引いてある。
怒りと反撃の嚆矢を放つ瞬間を間違えてはならない。
「黒竜旗!」
愛用の剣を腰から引き抜き、切っ先を倒すべき敵兵へ向ける。エレンの宣言と共にジスタート兵が軍旗を掲げる。
テナルディエ兵達にディナント戦の記憶はまだ新しい。黒き竜の旗が翻るたびに、記憶は脳裏へ鮮明に蘇る。テナルディエ兵達は悲鳴を上げて一目散に逃げ出した。
「突撃!」
ジスタート軍の鬨の声が上がり、追撃戦を開始する!
「ティグル!追うぞ!」「おう!」
エレン達に続き、テナルディエの残存兵を追跡しようとしたティグルは、ふと自分の持つ弓に目を運ぶ。弓には、これまでの境遇の苛烈さを物語るように、太い亀裂が走っていた。
(ティッタを助けた時か……。どのみち、これではもう使えない。どうすれば……)
この若者にとって、この弓は四肢の延長の一部であるといってもいい。代わりの弓があったとしても、それが決して手に馴染むとは限らない。
指先の神経と同調出来るほど馴染んだ唯一の弓だ。刹那――
「ティグル様。これを!」
ティッタは抱えていた家宝の弓を、強い眼差しと共にティグルに差し出す。
「こいつは……」
それはヴォルン家の家宝。彼にとって特別な弓だった。
ティグルは2年前、父が他界する時、こう告げ合った。
――その黒き弓は時代を勝ち取る力がある。だからこそ、本当に必要になったときに使うのだ――
――はい!俺はこの『弓』の力を正しきことに使います!希望の為に!――
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