播く(まく) 後篇
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カイナを見詰めるアギトの瞳に嘘偽りの類は一切無かった。唯只管に、カイナを案ずる心の動きが、呼吸に呼応して揺れていた。
「…カイナ。俺は君をよく識ってる。君は自分の意志に真っ直ぐな人だ。だから俺は君に嘘は吐かないし、吐こうとも思わない。…だからさ、話して。何があったの」
カイナは話すべきか逡巡したが、暫くするとアギトの曇り無き眼に気圧され、深く息を吐いて話し始めた。
?屍ウイルスの存在を知ってしまった事が部長にばれて、ウイルスを右腕に注射されたこと、社の利益の為ならば上層部は今にでもあのウイルスをばら撒くかもしれないこと、そうこうするうちに自分も?屍になってしまうかもしれないこと…全てを話した。
「…部長が?…本当に?」
「信じて貰えなくても仕方ないわよねぇ、あの人の好さで有名な部長だものねぇ…私だって今でも信じられない」
「いや、カイナが云うんだから真実なんだろうけど、…ちょっと待って、カイナ。?屍ウイルスを打たれたってことは、君もしかしなくても今狙われてるよね」
「…え」
「だって…?屍ウイルスの被験者だって事は、新型の実験台って事だろ。…つまり、誰かが絶対に見張ってる筈だ」
アギトがそう云った瞬間、金属のドアが勢いよく蹴られた。ガン、と重い衝撃を受けて、旧いドアはふっ飛ぶ。空いた穴の向こうには、怪しげな白い中華服の団体がこちらを睨むように立っている。明らかに異様だ。
「…異形の者は滅せられよ」
中華服の団体は確かにそう発した。口々にそう呟く。気味が悪い。
「ほら言わんこっちゃない、なんか来ただろ?!逃げるぞカイナ!!」
アギトに手を引かれ、カイナは窓を開けた。旧い社員寮、此処は2階だ。飛び降りたところで腕や脚の骨一本程度で事足りるだろう。
「…せーので跳ぶよ、カイナ。骨は諦めろ」
「…止むを得ないわ」
中華服はゆっくりとこちらへ近づいてきた。アギトが叫ぶ。
「…せーーーのッッッ!!!」
カイナはアギトに引っ張られるようにして地面へ降りた。白い中華服は追ってくる。2人は転がるように街並みを駆けていく。
白白とした昼の光が、赤く錆びた街を照らした。彼ら2人を待ち受けるのはどの様な運命なのか、これにて序章の終焉と致す。
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