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が、この瞬間は私だけを見つめている。
 きっと、今の私は悲しい顔でもしていたのかな? 
 大丈夫? って聞こえてきそうな、お姉ちゃんとしての顔。
 その瞬間だけ。ほんの一瞬だけかも知れない。
 私には壇上に立つ皆の高坂 穂乃果(・・・・・・・)が、目の前にいる私だけのお姉ちゃん(・・・・・・・・・)に感じられた。
 その瞬間に私の心の奥を覆っていた悲しみと言う名の雪は――お姉ちゃんの存在と言う名の太陽に照らされて溶けていくのだった。なんてね。
 
 そんな雪解けの心を持て余すように、ただ呆然(ぼうぜん)とお姉ちゃんを見つめていた私。
 私の心の中はわからなくても、表情の変化でお姉ちゃんは理解してくれたのかな?
 心配そうに見つめていた表情が(やわ)らいで、微笑みを咲かせる。私には、その笑顔だけで十分だった。
 だって私には、その笑顔が――
「さぁ、雪穂! 私達はココにいるよ! 待ってるからね? ファイトだよ!」
 って、言っている気がしたから。

 もう大丈夫!
 もう迷わない!
 お姉ちゃんはお姉ちゃん。
 私は私でお姉ちゃんの妹――ただ、それだけだったんだ。
 完全に溶け切った心の中に芽生(めば)えた暖かな感情。私は、その感情をお姉ちゃんに向けて表現したんだ。
 そう――
 お姉ちゃんが求めた物語の先にあったもの。今の私のせいいっぱいの笑顔と言う名の答えを。

 お姉ちゃんは私の笑顔を見つめると一瞬だけ納得したかのように目を閉じて、生徒会長としての――
 皆の高坂 穂乃果(・・・・・・・)としての顔に戻って言葉を紡ぎ始めた。
 それからは私を見つめることはなかったんだけど、それで良いんだと思う。
 だって――私は私なんだから。不安になっているくらいなら、私が飛び込めば良いんだ! あの光輝く場所へ。お姉ちゃんが見ている場所へ。

 私は、お姉ちゃんの挨拶を聞きながら先ほどの脳内で響いた掛け声を思い出す。
 そうだ、私には亜里沙がいる。お姉ちゃんだっている。
 なにより、私達のミュージックは今始まろうとしているんだ。
 この祖母や母が通っていた――
 そして、お姉ちゃんが通う国立音ノ木坂学院で!

 私達のミュージックが――
 私達の物語が――
 私達の叶える未来が――。
 
 だからもう一度。
 今度は私の方から亜里沙にピースを差し出す。
 亜里沙は私の表情を見つめて微笑むと、ゆっくりピースを並べた。
 式の間中、気にしてくれていたんだろうな? 口に出さなくてもわかる。
 ありがとう、もう大丈夫だから――そんな感謝の意味をこめて、最高の笑顔を亜里沙に見せる。
 そして、2人同時に指先を見つめて――

「……ミュージックゥー スタートォー!!」
「「!?」
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