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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百八十話 分進合撃
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起こっても不思議ではない」
「では、元帥は」
「出陣するだろうな」
「そ、そんな、無理です。元帥を止めて下さい」
「……」
気が付けば私は養父に取りすがっていた。しかし養父は口を強く結んだまま答えようとしない。
「お養父様が止めてくださらないのでしたら私が止めます」
「無駄だ!」
「お養父様……」
養父は厳しい目で私を見ている。
「敵が攻めてきたか、或いは味方が大敗北を喫したか、どちらにしてもオーディンは混乱するだろう。それを押さえるにはあの男の力が必要なのだ」
「……」
「その事をあの男は良く分かっている。だから止めても無駄だ」
「お養父様……」
「ユスティーナ、良く聞きなさい。あの男を止める事はもちろん、あの男の前で泣く事も許さん」
「……」
「戦場に出ようとする男を苦しめるな。それが出来ないなら軍人など好きにならぬ事だ」
「で、でも元帥は怪我を」
「あの男が一兵士なら代わりが有る、戦場に出ろとは誰も言わぬ。だがあの男は宇宙艦隊司令長官なのだ、お前だけのものではない」
「……」
「この先、あの男と共にあろうとすれば同じような事は何度も起きるだろう。耐えられるか? 耐えられぬのであればあの男の事は諦めよ。好きになる事は私が許さん」
ドアが開く音がした。振り返ると元帥がフィッツシモンズ中佐と共に部屋を出てくるところだった。元帥は中佐に支えられながら歩いてくる。時折顔を顰めるような表情をする。傷が痛むのだろう。
「閣下、敵がオーディンに向けて攻めてきました。三万隻の大軍だそうです。これから迎撃に向かいます」
「そうか、御苦労だな。武運を祈る」
養父と元帥が言葉を交わしている。私は涙を堪えるのが精一杯だ。とても言葉など出せそうに無い。
「ユスティーナ、元帥は出撃するそうだ」
「……御無事でお帰りを」
「有難う、行ってきます」
元帥が私達から離れていく、少しずつ離れていく。早く見えないところに行ってほしいと思うのにもどかしいほどに歩みが遅い。本当に元帥の怪我が憎かった。
元帥が見えなくなったら私は養父にすがり付いて思いっきり泣こう。声を殺して思いっきり泣こう。それなら養父も許してくれるだろう。もう少し、もう少しで元帥の姿が見えなくなる……。
帝国暦 487年 12月13日 宇宙艦隊司令部 エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
司令長官室の隣に有る会議室に既に艦隊の主要メンバーは集まっていた。副司令官クルーゼンシュテルン少将、参謀長ワルトハイム少将、分艦隊司令官クナップシュタイン少将、グリルパルツァー少将、トゥルナイゼン少将、副参謀長シューマッハ准将、キルヒアイス准将、副官フィッツシモンズ中佐、ヴェストパーレ男爵夫人。皆あまり顔色は良くない。も
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