外伝
第0話『るろうに戦姫〜独立交易都市浪漫譚』
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らない世界が、ここにあるのですね。
好奇心旺盛な笑みが彼女の口元に浮かぶ。その笑みはどこか悪だくみを企んでいるように見える。
それから凱はイスに大きく背中へ寄りかかり、目の前の女性に告げる。
「まぁ……ジスタートの事は、実は書物に目を通しただけなんだけどな。この場に俺しかいないから良かったものの、他の人に見られたら捕まっちまうぞ。面倒に巻き込まれる前にさっさと帰りな。しっしっ」
自らの引き出しに視線を移し、凱は早く面倒ごとを片付けたいような仕草でヴァレンティナに手を振った。さっき凱を野良猫として見たことに対するささやかな抵抗なのだろう。
「いやです」
「何ですと?」
艶めかしい足を少し崩してヴァレンティナは凱のお願いを拒絶した。
「だって私、疲れてしまいました。一晩この町に泊めて下さるかしら?」
疲れたといいながらも、その表情はどこか輝いている。わざとらしい彼女の仕草に、凱は正直面倒臭くなってきたと思った。
「俺の仕事をふやすんじゃない。わがままを言うとお兄さん許しませんよ。とっとと引き出しに戻れ」
図々しいことこの上ない話である。
凱は困り果ててしまった。仕事が増えてしまったからである。しかし、放っておくこともできない。
こまったな。泊まる場所はおそらく独立交易都市の生活労働組合で確保できるだろう。食事は適当に済ませるか。
(言う事を聞きそうにないから、とりあえずかまってやるか。あんまり騒がれてもこまるし)
妙なことに巻き込まれたなと愚痴をこぼしつつ、凱とヴァレンティナは3番街にある「食」の大通りへ繰り出していった。
――そして「食」の大通り――
「もう夜遅いってのに、ここはまだにぎわっているなぁ」
大小の祈祷契約式玉鋼が織りなすイルミネーション。「音声警報式玉鋼」を応用した「舞台音響式玉鋼」が繰り広げる愉快な音楽。
食欲を刺激する誘惑な「香辛料焼肉」が疲れた体に生気を吹き込み、食の大通りは客足をうまいこと誘導する技術に長けている。
そんな活気あふれたな雰囲気に、ヴァレンティナの目は釘付けになっていた。一つの不満を除いては――
「それにしても解せないですわ。どうしてこんなものをこの子に巻かなければいけないのですか?」
「我慢してくれ。廃刃令といってこっちじゃ騎士団以外の帯刃は禁止されているんだ。むしろ公務役所の保管倉庫に置いて言ってほしいくらいだぜ」
「エザンディス……拗ねてなければいいのですが……」
案の定、長布に包まれた彼女の大鎌がブルブルと空間をゆがませた。それはさながら不満をぶちまけるように――
実際、彼女自身はこの愛鎌を一時的に手放してもかまわないと思っている。なぜなら、持ち主の意志でいつでも手元に呼び寄せることが出来るから。
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