ブリューヌ激動編
第1話『流浪の勇者〜彼は愛故に戦えり』
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に否定は出来なかったと思っている。
事態を収めた凱が、民を虐げるような力でもって、ドナルベインにとってかわるかもしれない。
凱の穏やかな人格を知るティッタやバートランはともかく、町の人々はそうは思わないだろう。
あまり素性の知れない人間が、自分たちの町に住み着くほど、警戒しなければならないものはない。
「あ、あの……」
「せめて、お名前だけでも教えてくれませんか?」
「バートランさんから聞いたんじゃないか。それが俺の名前だ」
「私は、まだあなた自身から、あなたの声から聞いていません」
「|獅子王……凱」
ブリューヌ語独特の訛りではなく、日本語特有の濁音にて、凱は自らの名を告げた。
「シシ……オウ……ガ……イ」
頑張って日本語を発音しようとするティッタを見て、凱はなんだか癒された。
「それじゃ、俺、そろそろ行くよ」
そう微かに優しく微笑んで、凱の足は再び歩みだす。
一歩一歩、その足で歩くごとに、凱が遠くへ行ってしまう。
ティッタは、すれ違う凱の視線と合わせることなく、ただ立ち尽くすばかりだった。
「待ってください」
正面から女性の、凱を呼び止める声が聞こえた。それは少なくともティッタの声ではない。
「みんなは……昨日の」
凱もこればかりは正直いって驚かされた。なぜなら、凱の行方を遮るかのように、セレスタの住民たちが立っていたからだ。
「どうして?」
「私たちからもお願いです。どうかこのままセレスタにいてくれませんか?」
年若い女性から、いてほしいといわれた。
「あたしも……お願いしますわ」
心細そうな声で、老婆からいわれた。
それだけじゃない。老若男女、親の裾をつまんでいる小さな子供もだ。
連日度重なる野盗に、大勢の住民が不安を抱いているのだ。
日常が殺伐化している今のご時世に、今日、明日を生きていけるか――
いつ内乱に巻き込まれるのかわからない。
領主不在という状況が、それをより一層煽りを立てる。
「にーちゃ……」
ふと、子供と凱の視線が合わさる。その視線はどこか寂しさと不安が入り混じっている。
(俺は……)
過去に、とある戦いにおいて、小さな生命を殺めてしまった過去のせいで、心に大きな心の傷を負った。
弱者という立場を利用して、身勝手な正義という剣を立てられ、獅子は世間という居場所を追いやられてしまった。
赤い髪の少女騎士が立ち直らせてくれたから、手を差し伸べてくれたから、獅子は孤高にならずに済んだ。
その少女も、ここにはいない。
だから戸惑っている。凱の力を受け入れ容認してくれる場所があるのかと
そっと瞼を閉
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