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Sword Art Rider-Awakening Clock Up
瞬殺
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キリトが立った。

数日間の缶詰(かんづめ)を強いられるヨルコのために一番高い部屋を借りたので、5人が()になってもまだ周囲は広々としていた。ドアは北の壁にあり、西には寝室へと続くもう1つのドア、東と南は大きな窓になっている。

南の窓は開け放たれ、春の残照を含んだ風がそよそよと吹き込んでカーテンを揺らしていた。もちろん窓もシステム的に保護されており、例え開いていても誰かが侵入してくることは絶対にない。周囲の建物よりやや高台になっているので、白いカーテンの間から、濃い紫色に沈む街並みが遠くまで見渡せる。

フルプレート装備のシュミットとは比較にならないが、今夜はヨルコも相当着込んでいた。厚手のワンピースに革の胴衣(どうい)を重ね、更に紫色のベルベットの短衣(チュニック)を羽織って、肩にはショールまで掛けている。金属防具はなくとも、これだけ着込めばかなりの防御力が加算されているはずだ。表面上は平静でも、やはり彼女も不安なのだろう。

風に乗って届いてくる街の喧騒(けんそう)を、今回起こった事件の説明に(さえぎ)られた。

事件の重大さを理解したシュミットが、ヨルコに向けて口を開いた。

「……グリムロックの武器で……カインズが殺されたというのは、本当なのか?」

「……本当よ」

途端、シュミットは大柄な身体をビクッと震わせ、立ち上がる。

「何で今更カインズが殺されるんだ!?あいつが、あいつが指輪を奪ったのか?グリセルダを殺したのはあいつだったのか?グリムロックは売却に反対した3人全員を狙っているのか?俺もお前も狙われているのかよ!?」

今の台詞は、シュミットが指輪事件および圏内殺人双方と無関係だと宣言したに等しい。これが演技だとすれば大したものだ。

低い叫びを聞いたヨルコの表情が、初めて変わった。微笑を消し、正面からシュミットを睨みつける。

「私もカインズも、そんな事しないわ。それに……これはグリムロックさんに剣を作ってもらった、他のメンバーの仕業かもしれない。でも、もしかたら……」

虚ろな視線を、ソファの前に置かれた低いテーブルび落とし、呟く。

「死んだグリセルダさん自身の復讐なのかもしれない」

ヨルコの言葉にシュミットは唖然としていた。

「だって、圏内で人を殺すなんて、普通のプレイヤーにできるわけないんだし」

「な……」

パクパクと口を動かし、シュミットは(あえ)いだ。これには護衛3人も、少しばかりゾッとさせられた。

ヨルコは音もなく立ち上がると、一歩右に動いた。

両手を腰の後ろで握ると、皆に顔を見せたまま、南の窓に向かってゆっくり後ろ歩きしていく。(かす)かなスリッパの足音に合わせた、細かく切られた言葉が流れる。

「私、ゆうべ、寝ない
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