第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
語られない一幕:影を渡る密告者
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が、発見されるリスクを考慮した上で、追跡者は深追いを取り止める。しかしその刹那、溜息混じりに暗がりに消えようと翻る一人の男性プレイヤーの首筋に、そしてもう一人の手の甲に、それぞれ死角になっていた箇所に記憶に新しい徽章が目に映った。
それは、ピニオラの胸元に刻まれていた黒い棺。蓋と桶の隙間から覗く白骨の腕も視認され、一つの結論を導く決定打となる。
――――笑う棺桶の本拠地。
事前に得ていた情報とも合致するからこそ、内心ではもしやと疑っていたが、まさか本命を引き当てるとは思っていなかったのだろう。内部への潜入を踏み止まった自らの判断を自賛しつつ、マップデータに眼前の建造物の位置情報をマークした。
これで、この追跡者も当面の役割を終えたこととなる。情報を持ち帰り、然るべき相手に報告することで、《笑う棺桶》討伐隊の編成が開始されることだろう。それまでの間は彼も御役御免となる筈だ。
しかし、どうにも皮肉な顛末だと、追跡者は幾度目かも知れない溜息を漏らした。
この情報に至るまで、どれほどのプレイヤーと相対して聞き込みを行ったことだろうか。自分なりに相手の性格も推し量った上で仕事に当たったつもりではいたのだが、まだまだ見込みが甘かったらしい。事実として、大人しく誠実そうであったプラチナブロンドの少女――――《ルクス》はこの場所を秘匿しようと虚言を並べ、対して最も信頼度の低かった殺人者――――《ピニオラ》のヒント、《事前に得ていた前情報》こそが真実を言い表していたなど、俄には信じられないし信じたくもないのだが、認めざるを得ない事実である。
困惑と落胆。
達成感よりも大きく膨れ上がり、首をもたげる二種類の暗い感情に溜息を吐きながら彼は森を後にした。
幸い、《索敵》スキルが捉えた気配はどれもモンスターばかりで、プレイヤーは周囲に居ないことが判明している。気休め程度ではあるが、せめて窮屈な思いから逃れようと発動していた各種スキルを解除する。
それにより、木々のざわめきしか聞こえなかった森に足音が小さく響く。
次いで、風にそよいでいた下草の絨毯、その中に突如として靴跡が刻まれる。
追って、森の色彩にぼんやりと凹凸が浮かび上がる。
それは徐々に輪郭を顕に空間に刻み、上塗りするように色を帯び始めた。
黒に統一されたコートとスーツ、一点だけ目に冴える赤のネクタイ、170センチ後半の細い体躯が徐々に描かれ、溜息を吐くのは不機嫌そうな感情の籠る無表情。
鬱蒼とする木々の群れを掻い潜りながら、誰に聞かれることもないまま、先程まで追跡していた相手へと悪態を零す。
「まったく、結局は全部知ってたじゃねえか」
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