第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
語られない一幕:影を渡る密告者
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れば幸いであるのだが、異質な行動を証明する根拠もなく、むしろ可能性が低いものであるとして、名残惜しくも望み薄と結論付けて溜息を零す。
そんなことを考えるうち、森はより枝葉を深く密集させて視界を遮る。
奥へ、奥へ。まず真っ当なプレイヤーであれば主街区までの帰途を考慮したら、およそ寄り付くことのないエリアだろう。日も傾いているし、やはり主街区に拠点を置くようなプレイヤーではないと暗に告げられたような心持ちさえ覚えつつも、追跡者はその視界に斜陽のオレンジ色を見た。
薄暗い森から一転、ぽっかりと空いた平地が姿を現す。
上層の天蓋を除けば上空を遮るものはなく、そこを大きく占める遺跡様の建造物が一つ。一見すればダンジョンのようであるが、そこへ彼女は躊躇うことなく向かう。仮にダンジョンであれば、保有アイテムを含めた装備重量過多によって自由な身動きが取れなくなる可能性だってある。無謀な行為にも見受けられるが、しかしそれは杞憂として、同時にこれまでの疑念への明確な回答まで添えて断じられた。
ダンジョンと思しき建造物が開く出入口、その暗がりから数名のプレイヤーがゆっくりと姿を現したのだ。男性だけで構成されたプレイヤーの群れは、間もなく彼女を取り囲むと双方共にウインドウを開き、何やら遣り取りを開始する。彼等のカーソルが示す色彩はオレンジ、つまりは何らかの犯罪行為を働いたプレイヤーということになる。
追跡者とプレイヤーの群れ、彼我は距離にして120メートルほどだろうか。
通常のプレイヤーの視力では、システム的にもその仔細な遣り取りこそ視覚として捉えられないだろう。だが追跡者は構わず視線を送り続ける。実のところ、彼にはそのウインドウの一文字に至るまで視認できる秘策があったのである。
索敵スキルMod《望遠》と称されるそれは、文字の如く遠方の詳細な情報を読み取るのに用いられるスキルだ。人気のあるスキルではなく、まともな用途さえ見出されることのない不遇なスキルであるが、このような限定的な条件下では無類の実力を発揮する。
当初、プレイヤー達を捉えていた視界は追跡者の意思で急激に狭まり、次いでその範囲を瞬時に拡張させて倍率を調整する。見定める先は彼等の指先にあるウインドウ。示される文字列からして、街で仕入れたアイテムの受け渡しであったらしい。つまり、眼前に鎮座する建造物はオレンジプレイヤーの巣窟となっている。自力で仕入れられないアイテムや敵性勢力の情報を、彼女のようなグリーンプレイヤーが調達する。どうやら役割分担による機能は形成されているらしい。略奪だけで日々を凌いでいるわけではないようだ。
数分かけてアイテムを見張りに渡すと、棒立ちだった彼等が遺跡内部へと一斉に動き出した。
あわよくば内部へ潜入したいという欲もないわけではなかった
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