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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七十九話 雷鳴
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ったかな、気付いただろうか?」
「気付かぬはずは有るまい、そうだろう、ミッターマイヤー」
スクリーンに映るミッターマイヤーが顔を顰めた。そう、気づかぬ筈は無い、あの時既に司令長官は伯の野心に気付いていた。

ミッターマイヤーの気持が分かる。正直、俺とミッターマイヤーの立場は微妙だ。元々ローエングラム伯の指揮下に有ったという事で周囲からは伯に近いのではないかと思われる事がある。厄介なのは伯自身が俺達を頼りにしているのではないかと思えることだ。

伯に対して特別な思い入れは無いと言えば嘘になるだろう。ミッターマイヤーの危機に対して動いてくれたのは司令長官と伯だった。その恩は忘れた事は無い。

しかし、付いていけないと感じたのも事実だ。伯の指揮下に入ってから気づいた事はその危うさだった。到底自分達の未来を預けられるとは思えなかった。司令長官が何故伯から離れて行ったか、俺たちと同じように伯に付いていく事に危険を感じたからだ。

そして俺個人に限って言えば、ベーネミュンデ侯爵夫人の一件で司令長官に顔向けできない事をしてしまった。本来ならどれ程罵倒され、蔑まれても仕方の無い事だった。

しかし、司令長官は俺を責めなかった。それどころか苦しんでいる俺を気遣ってくれた。あの時の言葉が今でも耳に蘇る。

“ロイエンタール少将、あの件を気に病むのは止めて下さい”
“卿は軍人としての本分を尽くせば良いんです”
“勝つことと部下を一人でも多く連れ帰ることです”

その通りだ、勝つことと部下を一人でも多く連れ帰ること、それこそが軍人の本分だろう。あの言葉があったから戦いに専念できた、あの言葉があったから迷わなかった。この先、あの言葉を忘れることなど無いだろう。どれ程感謝しても感謝しきれない、俺はあの言葉に救われた……。

「厄介なことになるな」
「……」
ミッターマイヤーの言葉に俺は無言で頷いた。

厄介な事になる。意識を取り戻した司令長官がローエングラム伯をこのまま放置するとも思えない。それは俺達だけではなく、皆が昨日思ったことだ。必ず何らかの動きがあるはずだ。それがなんなのか……。辺境星域の攻略にどんな影響を与えるのか……。

“ロイエンタール少将、あの件を気に病むのは止めて下さい”
“卿は軍人としての本分を尽くせば良いんです”
“勝つことと部下を一人でも多く連れ帰ることです”

また、あの声が聞こえた。悩むまい、俺は軍人としての本分を尽くせば良い。勝つことと部下を一人でも多く連れ帰ること。それこそが指揮官のなすべき事だ……。



帝国暦 487年 12月13日    クレメンツ艦隊旗艦 シギュン  アルベルト・クレメンツ


帝国軍本隊は二手に分かれて進撃している。オーディンよりフレイア星系を目指す部隊
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