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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
56.第六地獄・凶暴剽界
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した鈍痛、ありとあらゆる痛みが全身を襲う。

「ぐがあぁ………ア、ああああああああああああああああああああああッッ!!!!」

 人間はここまで理性の剥がれた獣に近づけるのか――そう感じざるを得ない程に激しく浅ましい悲鳴染みた怒声が響き渡る。だがオーネストの咆哮は痛みを誤魔化す為の物ではない。
 ――自分はまだ生きて戦える。その確認だ。

 あの炎の姿の影響か、オーネストが握る二本目の剣の表面に付着した血液が本当に沸騰していた。炎と違って浴びれば皮膚や装備にべったりへばり付き、その体を焼き尽くすだろう。頬に微かに張り付いた黒竜の血が発火して燃えるが、オーネストは無言で燃える自分の頬の皮膚を肉ごと剥ぎ取った。
 ぶじゅり、と音を立てて火の付いた肉片が足元に落ち、燃え尽きた。

「終わりが見えぬ暗夜を、彷徨って彷徨って彷徨って彷徨って………ここにあると思ったから。だのにお前は俺の邪魔をするばかりで、まだ辿り着けない。お前がそうなのか?それとも、お前も俺の終わりではないのか?だとしたら俺は何処へ向かう――何処へ向かってるんだッッ!!!」

 噴き出す血の量が次第に減り、熱した鉄を水に突っ込んだような音と共にオーネストの傷口から白い煙が噴き出る。近くに人間がいたら気付けたろうその煙は、オーネストの体を死ねなくする躰の呪縛。その事実が、今にも崩れ落ちそうなほどに罅割れたオーネストの心を飢えさせる。
 敵より何より恨み続けたこの肉体を殺し尽くすのが先か、黒竜という空前絶後の怪物を殺し尽くすのが先か――殺し尽くした先に更なる殺戮の道が続いているのか。

「道の終わりまで己を殺し尽くせないのなら――次は天界の総てを、それでも届かないのなら今度こそイカレたこの世界ごと殺し尽くしてやるッッ!!!」
『グルルルルルル………ガァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 天の主が、世界を犯す殺意に応えるように咆哮を上げた。

 叫べば叫ぶほど、暴れれば暴れる程、殺せば殺す程に――オーネストの頭の中で、大事な何かが焼き切れてゆく。心を縛る鎖が脱落し、オーネストの中にいる本当の自分が、擦り切れていく。本当(オーネスト)の自分を(ライアー)の自分が喰らい、貪り、壊す。


 本当に、君はそれでいいの?と――誰かが囁いた気がした。


 聞くための鼓膜は、とうの昔に破れていた。
 
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