56.第六地獄・凶暴剽界
[2/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
死欲動――自殺では意味のない、満足と納得に足るほどの、魂を粉々に打ち砕くほどの永遠の終わりを望んだ。
黒竜は絶対者然とした姿の裏で、密かにこの人間がほかのありとあらゆる人間と違う特別な存在であることを感じ取った。触れれば崩れる案山子のような存在とは、あらゆる部分が違いすぎる。かつて戦った英雄と呼ばれる連中とも違う。意識と闘争本能が融合した嵐のような存在に、黒竜は「また縊り殺し損ねる」という漠然とした予感を抱いた。
少年の期待は裏切られ、竜の予感は現実になった。
オーネストの刃は竜に傷を負わせるには辛うじて至らず、黒竜は自らの引き起こした衝撃波によって巻き起こった瓦礫と砂塵に阻まれてオーネストを見失った。その後、オーネストは『ロキ・ファミリア』に望まずして助けられ、再度オラリオへと戻る事になった。
三度目の対面の際、オーネストは未だかつてない程に強い戦意を以って戦った。目撃者は黒竜しかいないが、見る者が見れば「魂を燃やし尽くすような戦い」と称したであろう。或いは、人間が化け物になる過程を生々しくも悍ましく描いたような戦いだった。
黒竜は更に成長したその人間に戦士として純粋な敬意を表すると同時に、恐怖を覚えた。この人間をこれ以上取り逃がしたら、いずれ自分をも滅する存在となる。三大怪物の一角をたった一人で下すような存在が人間の側に付いたとなれば、それは黒竜にとっての「母」の命を脅かす。黒竜は今度こそこの人間を確実に殺害せねばならないという強い殺意を抱いて戦った。
オーネストの刃は黒竜の鱗を切り裂くまでに鋭く、強くなっていた。黒竜の知る限り、古代の英雄や数十年前に現れた戦士たちの中にもこれだけの実力を持った存在は多からずいた。だが、それは人間という限りある器を極限まで使いこなして辿り着いた「境地」と呼べる領域にまで達した戦士達であり、目の前の人間が振るう剣はまだそれに達していないと黒竜は思った。
黒竜は確実にオーネストを殺すため、体の傷を無視してまで徹底的に痛めつけた。途中で爪や尻尾の一部を斬り飛ばされ、髄に至る寸前の猛攻を受けたが、それでも持ち前の力と実戦経験で圧倒し、最後の最後まで追い詰めてもう抵抗が出来ないことを確認してから食い殺そうとした。
オーネストは、掠れる意識の中で自分の死期を悟った。
2度目の瀕死より更に体が砕け、原型を留めているのが不思議な体。もう出せるものは何もなく、あとは刹那と那由他が永遠に交錯する世界へゆくだけだと、意識を落とした。
オーネストは、『まるで意識がないまま黒竜の顎を殴り飛ばした』。
――のちに助けに来たアズに聞いたところ、オーネストは意識がないまま戦おうとしていたらしい。いや、確かに意識はあるかのように動いていたが、それが本当にオーネスト
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ