覚醒した者
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曇天のもと、悄然と聳える昏い一軒家の前に、車を停めた。かつては綺麗な花が咲き誇っていたであろう玄関先のプランターは、枯れ果てた残骸を晒して軒先に転がる。天気のせいもあろうが、こういう家庭はいつもそうだ。暗澹としている。
引きこもりを抱えてしまった家庭は、いつもそうなのだ。
チャイムを鳴らすとすぐに、息を弾ませたような声が帰って来た。
『はっはい!ハイハイハイ!!』
―――テンション高い。
「引きこもりカウンセラーの須藤です」
『あっあっお待ちしてました!!あっあっ開けます!今開けます!!』
玄関先で待ちながら、少し陰鬱な気分になる。
引きこもり家庭にありがちなパターンだ。親の過干渉。この無駄にテンションの高い、そして弱者のか細い声が決して通ることのないそんな家庭に、繊細なタイプの子供は押しつぶされてしまう。引きこもりは、声なき子供たちの無言の叫び、なのかもしれないな。
「お、お、お待ちしてましたハイハイハイ!!上がってください!!今すぐ息子を、息子を!!」
「落ち着いてください。状況は伺っております。今日は息子さんに合わせて下さい」
「こちらです!こちらの2階です!!その先の、四畳半です!!」
なんか頭もっしゃもしゃのカリカリに痩せたおばさんに、非常に忙しく2階の子供部屋に案内される。面談の時も思ったのだが、本当に落ち着きがない親だ。
俺はつい先日の、彼らとの面談を思い出していた。最近はヤクザまがいの方法で引きこもりの子を無理やり引きずり出して施設に放り込む、などという雑な更生プログラムがあるようだが、その方法では結局脱走され、元の状態に戻ってしまうか、最悪人間不信が悪化して部屋にすら入れてもらえなくなる場合も多い。だから引きこもりの家族と打ち合わせをして、どういう経緯で引きこもりが始まったのかを詳しく聞き出し、その子に合った更生方法をゆっくり、無理なく提案していきたい。俺はそう思っている。だがこの両親は。
「引きこもりが始まった頃、虐めなどはありましたか」
「分からないですよ!とにかく急に外に出なくなったんですから!」
「家族間で諍いなどは…」
「ぜーんぜん!何しろ不満も不平も言わないし!!」
「様子がおかしかった、とか…」
「あ?様子って?とにかく!引きこもりは駄目でしょう!?そういう細かいのはいいから、ちゃっちゃと出してくださいよ!」
―――駄目だこれは。
居るのだ、こういう親は。決して悪人ではない、ただひたすら愚鈍で無神経なのである。本人もそうであれば似た者同士、何も問題はないんだが、この両親に繊細な子が生まれた時点で悲劇は始まる。…引きこもりにとても多いパターンだ。そんなわけでこの案件に於いて俺はノーデータ。この親が求めているのはテレビなどで見るような、オラつき職員が
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