覚醒した者
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ドアを壊して拉致するやつだ。俺は小さくため息をつき、四畳半のドアノブに手を掛ける。引きこもりの部屋は悪臭に満ちていると相場が……
異様に清浄な空気が俺を押し包んだ。
「なっ…なにこれ!?」
仕事用のポーカーフェイスが吹っ飛ぶ、そんな光景が目前に広がっていた。
咲き乱れる草花に囲まれるように座禅を組む彼は、安らかに目を閉じていた。伸びた蓬髪も髭にも不潔な痕跡はどこにもなく、俺の方が恥じて背広の匂いを嗅いでしまったほどだ。そして彼は。
「……浮いてんじゃん!!」
俺の胸あたりの高さを浮きながら、彼は後光を放っていた。胸の辺りで合わせた掌は、もう何年もそうしているようだ。
「もう!この子ったらまたそうやって世間から浮いて!!」
―――へ?
「そうだぞ義彦!お客様の前で恥ずかしい、降りてきなさいっ!!」
いつの間にか背後に現れた小太りのオッサンが、彼の足に組み付いて無理やり床に降ろそうとする。
「くっそ降りないぞ、なんて強情なんだ」
「もうっ!乗るわよ!!」
母親が背中に組み付いて、アホが二人がかりで彼を床に抑え込む。
「ちょ、ちょっとやめましょう!?2000年くらい前の宗教裁判みたいになってますから!!」
「ごっごめんなさいねーお恥ずかしい、いつまでも浮世離れした子でー。こらっまだ浮くの!?強情な子ね!!」
「待ちましょう、落ち着いて!強情さで宙には浮けない!」
何を云っているのだ、落ち着くのは俺だ。落ち着け落ち着け、えーと…
「……いつから、このような状態に?」
「引きこもり始めたのは2年前ですが!?」
「そんなのどうでもいい!…いつから宙に浮いてたのかと」
「え?え?そりゃあ…4歳くらいから?」
「おかしいなと思わなかったんですか!?」
「え?え?…ほら、よく『浮世離れ』っていいますし」
きょとん顔のまま母親が答える。頭がくらくらした。
こいつら、まじで20年近くこの状況をスルーし続けたのか…!?愚鈍とか無神経ってレベルじゃないぞ。
「食事…はどのように」
「ぜんっぜん食べないんですよー、ホント強情」
「2年食べてないのに生きてるんすか!?」
「コンビニとか行ってるんじゃないかしら」
「え、しかし確か2年間引きこもりと…。いや、もういい。質問変えましょう。重度な引きこもりの方は糞尿を部屋に溜めこむケースが多いですが、彼はトイレを使っていますか」
「あら、そういえばトイレに行くのも見た事がないわねぇ。…この子ったらお部屋に!?義彦、どこに隠してるの!!」
またぞろ軽く宙に浮く義彦に、アホ二人が覆いかぶさる。…違う、そうじゃない。俺が云いたいのはそうじゃない。
「いやいやいやその可能性は低い。その場合はひどい臭気がありますから!」
「じゃコンビニで済ませてるのかしら
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