第十七話 姉妹の薔薇その四
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「私は黒薔薇、そして」
「そしてとは」
「その薔薇だけだから」
「ですがそれでも」
「その薔薇も入れないわ」
葡萄酒のその中にというのだ。
「見ているだけでね」
「充分ですか」
「そういえば薔薇の花びらは食べられるわね」
遠い目を元に戻してだ、マイラは言った。
「それも出来るわね」
「そして飲むことも」
「そうね、けれど」
「お姉様は召し上がられることはですか」
「貴女はしても」
それでもと言うのだった。
「私はしないわ」
「だから葡萄酒もですか」
「このまま飲むわ、むしろ」
その赤い葡萄酒を飲みつつだ、マイラは言っていた。
「こうしてこのまま飲むことすらも」
「贅沢だと言われますか」
「そう、古来は違っていたわね」
「お水等で割って飲んでいたそうですね」
「ええ、けれど今はこうして飲める」
葡萄酒を何かで割らずにそのままでというのだ。
「これだけで充分な贅沢よ」
「そう言われますか」
「人にとって過ぎた位に」
「では薔薇の花びらはそうした意味でも」
「口にしないわ、あくまで必要なものだけを」
「召し上がられればですか」
「それで満足すべきだから」
こう考えているからこそというのだ。
「私はこのままでいいわ」
「そうですか、では」
「貴女がそうして飲むことは否定しない」
葡萄酒の中に三色の薔薇を入れて飲むそれはというのだ。
「決して、けれど」
「お姉様はされない」
「このことも言っておくわ」
「わかりました」
マリーはマイラが自分と同じ飲み方をしてくれないことに内心残念に思いつつもそれは隠した、そしてそのうえでだった。
あらためてだ、マイラに言ったのだった。
「今度ですが」
「今度とは」
「お父様、そして先王のお墓参りに行きませんか」
マイラの目を見て誘った。
「そうしませんか」
「お父様、そして私達の弟であった」
「先王にです」
こう申し出たのだった。
「如何でしょうか」
「ええ」
まずは一呼吸置いてだった、マイラは妹の言葉に答えた。
「それではね」
「宜しいですか」
「貴女もこれまでお墓参りはしていたわね」
「月に一度ですが」
「私もよ、ではね」
「共に」
「参りましょう」
「有り難うございます」
この申し出を受けてくれたのが嬉しくだ、マリーは。
つい顔を綻ばさせてだ、微笑んだ。その微笑みを見てだった。
マイラは表情を消したままだった、だがそれでもだった。その顔を綻ばさせた妹に対してこう言ったのだった。
「いい笑顔ね」
「笑っていましたか」
「心からね、そう嬉しいのね」
「はい、お姉様とご一緒出来るのね」
「まるで私を好きな様な言葉ね」
マイラはマリーの言葉を聞いて述べた。
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