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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七十七話 新たな火種
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両回廊を押さえるべきだと言う彼らの言葉には一理有るのは確かじゃが……」
ビュコック提督が語尾を濁した。右手で額を押さえている。確かに頭の痛い問題だ。せめてあと三個艦隊有れば可能だ、だが今の同盟にはそれが無い。
「今の同盟には両回廊を維持できるだけの兵力がありません。フェザーンは中立国家として存在してもらわなくては……」
「そうじゃの。フェザーンには色々と思うところもあるが、とりあえずは緩衝地帯として存在してもらわなければならん」
そのためにも政府には外交交渉を頑張ってもらわなければならない。しかし……。
「総参謀長、貴官は例の新任の高等弁務官だが、あの男を如何思うかね?」
ビュコック司令長官が顔を顰めて問いかけてきた。
「オリベイラ弁務官の事ですか、まあ前任者のヘンスロー弁務官よりはましかもしれませんが……」
例の共同会見以来、ヘンスロー前弁務官の評判は下降する一方と言って良い。帝国の弁務官が堂々としていたのに対しヘンスロー前弁務官の態度は醜態といってよかった。フェザーンに買収されていたと言う噂もある。
「あの男が煽ったと言う事は考えられんかな、総参謀長」
「まさか……」
今回のフェザーン方面派遣軍にはオリベイラ新弁務官が同乗している。
ビュコック司令長官の言葉に私は出発前に挨拶に来たオリベイラ弁務官を思い出した。以前は国立中央自治大学学長という地位に在ったが、学者と言うよりは自信と優越感に溢れた官僚のような雰囲気を持った男だった。
「いや、わしの気のせいかもしれん。年を取ると疑い深くなっての、困った事だ」
「……」
ビュコック司令長官が疑い深いなどと言う事は無い。人を見る眼は確かだ。確かにオリベイラ弁務官には私自身危うさを感じなかったわけではない。だとすると同盟はフェザーンに新たな火種を抱え込んだのかもしれない……。
これからはイゼルローンよりもフェザーンの方が危険かもしれない。フェザーンにもより注意深く目を向けなければならないだろう。先ずは駐在武官か……。
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