第6章 流されて異界
第152話 冬の花火
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いるはず。
……おそらく、弓月さんも、それに朝比奈さんや朝倉さんも現状では同じような状態のはずなのに、ハルヒの奴だけは、何故か受ける印象が違うような気がする。少なくとも彼奴に、しっとりとした嫋やかなイメージなど抱く事はないでしょう。
しかし、
「ねぇ、そっちは花火がちゃんと見えているの?」
こっちは屋根と塀が邪魔をして、綺麗に見えないんだよね。ほんと、嫌になっちゃう。
しかし、俺の次なる言葉を待つ事もなく、さっさと言葉を続けるハルヒ。
但し、その言葉の中には、先ほど感じさせた不機嫌さは一切感じさせる事はなかった。もっとも、本当に必要なのは一言だけのはずなのだが、其処に辿り着く前に光なら地球を何周出来るか分からないぐらいに回り道をした挙句、妙に反感を覚えるしかない言葉を口にして来る。
俺も一言……と言うか、十言ぐらい多いのですが、その辺りに関しては彼女も同じ。
本当に嫌に成るのは粘り強く相手をさせられる俺の方。少なくとも、彼奴の発して居る気を理解出来る人間か、それとも心底、彼奴に惚れている男性。もしくは少し特殊な性癖を持った男以外では、ハルヒの話し相手に成らないと思うのだが。
「あぁ、問題無い。こっちからは綺麗に見えているぞ」
視線を花火の方向から、ヒノキ製の、男湯と女湯の間を分かつ壁へと移す俺。結界の解除と同時に、無音で次々と打ち上げられていただけであった花火に、かなり間の抜けたポンポンと言う小さな音が遅れて付いて来ている。
音速と光速。これぐらいの距離でも、その差を感じさせる事が出来るのか。ぼんやりとそう考えさせられるには十分なぐらいの時間差を耳でのみ確認しながら。
もっとも、流石に本心を口にすると怒り出すのは目に見えているので、ここはぐっと我慢をして……。しかし、それでも多少の優越感を籠めた口調で、そう答える俺。
ただ、少し嫌な予感が。そもそも、コイツ、何故、今そんな事を言い出したのだ?
「大体、女湯の方に屋根があるのは当たり前でしょうが」
僅かに眉根を寄せながら、取り敢えず、その嫌な予感が現実の物にならない為の予防線。……と言うか、その予防線に持ち込む為の会話の展開を即時に組み立てる俺。
何にしても、これ以上、暇人の思い付きに振り回されるのは御免被る。
「出歯亀や盗撮のリスクと、一年に一度の花火見物を比べると、女風呂に屋根がない状態だと旅館としてはリスクの方が大き過ぎるからな」
ヒノキ製の高い壁の向こう側。その女風呂の上に存在している屋根に視線を向けながら、そう話し続ける。
そう、男風呂の方は上空に何も遮る物のない、完全無欠な露天風呂と言うべき場所なのだが、流石に女風呂の方はそう言う訳にも行かず……。
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