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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#5
PRIMAL ONEU 〜Either Side〜
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【1】

 クルミ材に象眼細工の施されたチェス盤の上で、
ホベミアクリスタルで造られた駒が互いに行き交う。
 ブラック・シャンデリアの気品ある光源の下、
全体的にクラシックな家具や調度品で蕭やかに彩られた室内で
現世の麗人と紅世の美少女が駒を進める音だけが響く。
 ダークカラーに染まった爪がビショップを右端に移動させた後、
ピンクサファイアの上に花びらの装飾を瞬かせる指先が
ナイトをポーン越しに動かし牽制を図る。
 麗人は表情を変えず脚と両腕を組んだまま盤上を見据えるだけだが、
少女の方は駒を動かすたびに自分の爪を見つめ、
やや大人びたその色彩に頬を綻ばせた。
「……夜分に失礼致します。 “エンヤ様” 」
 唐突なノックの音。
 声量を抑えた若い男の声が、閑雅な室内に流れる。
「入れ」
 声に反応した少女とは対照的に、麗人はドアに視線を向けず
クリスタルの駒を動かした。
「失礼致します」
 洗練された挙措でドアを開け閉めした、
裾の長いスーツ (いわゆる執事服) を着た美形の青年が
エンヤの傍に音もなく歩み寄り何事かを耳打ちする。
 麗人はその色白の美形と視線を交えず、
ただクリスタルの音のみを盤上に立てる。
「……解った、下がれ」
「何か御用がありましたら、何なりとお申し付け下さい」
「うむ」
 結局エンヤが一瞥する事もなかった男は、
表情を変えないまま肩に手を添え慇懃に一礼し部屋を出ていく。
 褐色の麗女は一度何事かを考えるように視線を盤上から逸らしたが、
ものの数瞬で元に戻す。
 常人には識別不能の微細な感情の変化だったが、
目の前に座る異界の少女はソレに気づいた。
「どうした? ここにきて長考か?」
 それまで間断なく(思い切りもよく)駒を進めてきた少女の手が止まったのを
見据えたエンヤが呟く。
「あ、あぁすいません。エンヤ姉サマ」
 そう言われたフランス人形のような風貌の美少女、
紅世の徒、その真名 “愛染他” ティリエルは
冷や汗を背に飛ばしながら駒を動かす。
「ほう、ソコに来るか。己の両翼を切り落としつつも
こちらの臓腑を悉く焼き払おうと画策するとは、
見掛けに似合わぬえげつない攻めをする」
 満足げに微笑む麗女に、いつもなら花のように無垢な笑顔を咲かせるか
可憐に誇ってみせるティリエルだが、今日は些かその面持ちが違った。
「あ、あの、エンヤ姉サマ?」
「なんじゃ? “Take back” は認めぬぞ」
「ち、違いますッ!」
 意を決して聞いてみたものの、いつまでたっても子供扱いするエンヤに
ティリエルは胸元に両手を握って強く言う。
「先程のお話は、何だったのですか?
何かあったのございますか?」
「……」
 エンヤはすぐに答えず、数
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