第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#5
PRIMAL ONEU 〜Either Side〜
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支える」
時計の針は零時を回っており、
最も 『今はもう人間ではない』 麗女に取っては意味のない事象ではあるが、
二人の体調管理の為に彼女はそう促した。
「そうですわね。随分長居をしてしまいまして。
さぁ、起きて下さいませ。お兄様。お部屋に戻りますわ」
そう言って椅子から下りたティリエルが、
インテリアソファーの上で仔猫のように寝息を立てる双子の兄、
紅世の徒 “愛染自” ソラトの躰を揺り動かす。
「やはり、起きませんわね。仕方がないですわ。よいしょっ、と」
「お前が、担いで帰るのか?」
備え付けのバーカウンターで、クープ型のグラスに黄金色の泡が煌めく
液体を口元に運んでいたエンヤがティリエルに問う。
「えぇ。お兄様は一度熟睡してしまいますと、封絶が発動しても起きませんの。
このままにしておくわけにもいきませんし、致し方在りませんわ」
そう言って慣れた手つきで自分の兄を引き擦るように背負う少女を見据えながら、
麗女は半分も減っていなかったグラスの中身を一気に飲み干した。
「ドアを開けろ」
空になったグラスをカウンターに置きながら、
エンヤは凛然とした声でティリエルにそう命じる。
「え?」
ソラトを背負いながら首だけでこちらを振り向く少女に、
「早くせよ」
麗女は同じ口調で再度告げる。
「は、はい!」
弾かれたようにソラトをソファーに戻し、
ティリエルはドレスの裾を摘んで慎ましくドアの前へと駆け寄る。
エンヤが何も言わないのに気を良くし、
二人で少し親密に接し過ぎた事を不快に想われたのか?
確かに改めて立場の違いを鑑みれば汗顔の至りだが、
それでも自分はとても嬉しかったのにと
綺麗に彩られた爪を見つめながら振り向いた、先。
「行くぞ」
「ッッ!!」
その麗女が、兄を背負って目の前に立っていた。
普段と変わらぬ威圧感の在る瞳、
凄艶なる肢体のラインを織り連ねる薄地のビスチェ、
黄道象徴の銀鎖で飾られた漆黒のヴェール。
そんな闇冥の水晶が人の形容に具現化したような褐色の麗人の肩で、
紅世の少年が安らかな寝息を立てている。
「あ、あ、あ、の、あの……? エン、ヤ、姉、サマ?」
元来超常の存在である、紅世の徒の眼にも俄には信じ難い光景を前に
麗女は少年を背負ったまま開いたドアを潜って外へと歩き出す。
あわててドアを閉めた少女も困惑しながら後に続いた。
柔らかな絨毯を踏み締めながら、
現世の麗人と異界の美少女が瀟洒な邸内を共に歩く。
左隣のティリエルはやや緊張した面持ちだが、
ソラトを背負うエンヤの表情には別段何の翳りもない。
夜の静寂の中、繻子のヒールとレースの装飾が付いた靴の音が
断続的に響いた。
や
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