蒼き君
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図書室というのは静けさの象徴であると最近僕の中で意識が固まってきた。どうしてだか知らないがこの部屋には黙らなければならないという不思議な空気が漂っていて、それに従わないものは注意をされ、酷い時は追い出されたりする。
何故と言われればすぐに理由を答えることができはする。読書をしている人の迷惑になるからだとか、貼り紙に提示されている通りのルールだからだとか、昔からの伝統だからだとか、色々と押し付けることはできる。しかしそれで彼らが納得するかどうかと聞かれれば、難しいと思われる。あれは元気の塊であるから、そんな理不尽を理解できるほどまだ拗らせてはいない。僕は当然拗らせているし伝統を守る良き読者であるから沈黙こそ尊きとまで思っているが。
しかし手に取ったこの本、中々に面白い推理小説である。小学校にどうしてここまで凝っている本が置いてあるのかは甚だ疑問ではあるが、そんなことはどうでもいい。どうせ重要なことじゃあない。
そこら辺の火曜のお昼にやっているような再放送しているサスペンスとは雲泥の差だ。文字だからこそ伝わる緊張感と、引き込まれていく自意識、文字を追う目とページを捲る指が止められなくなるのは久しぶりかもしれない。犯人は一体誰なんだ、一体どんなトリックを使って事件を起こしたんだ――!?
ふと、目の前に誰かが座るのが視界の端で見えた気がした。目の休憩も兼ねて指を止め目をそちらに移せば、そこには姿勢よく座っている女子の姿が見える。
彼女は確か、別のクラスで今日一番人気者である女子だったか。やけに見覚えがあるなと思っていたら、うちの生徒だったのか。通りであの時、既視感があると思った。しかし正体が分かったところで僕にはなんの関係もない、こんなすっからかんの部屋でどうしてわざわざ僕の目の前に座ったかは確かに気になることだが、僕にとって今一番気になるのはこの小説であって彼女ではない。僕なぞ相手にされないことぐらい誰でも察しがつく。
さて、まず登場人物それぞれのアリバイを固めていくところから始めるか――
「……それ、お手伝いさんと長男が犯人」
「………………………………………………は?」
「お手伝いさんは遺産相続を狙ってる長男とできていて、二人で結婚生活をより豊かなものにするために作戦を決行。長男はフェラーリが欲しくて、お手伝いさんはエルメスのカバンが目当て」
「……よ、良くできた妄想だな。チラシの裏にでも書いていればいいんじゃないか?」
「因みにアリバイにもなった当主の服が何故違うのかというと、一人が薬を持った後に一人が服を着替えさせ、一人がそのあとに刺したから」
「おい待てそれ以上はやめろ」
「こうすることで当主が死んだのは風呂に上がった後という虚実を作り出し、その間に二人はアリバイがあるよ
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