蒼き君
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うに工作、そうすることで二人は警察の目を逃れ事件を迷宮入りにして幸せに生きようとした」
「やめてくれ、もうやめてくださいお願いします」
「最後は主人公に看破されたから二人で自殺しようとしたところを母親に叱咤され二人は思い直し、お手伝いさんだけ風に煽られて無惨に死んだ」
「お前なんで全部言うの!? もうそれ脳みそにこびりついちゃって離れないじゃん! それがでたらめだとしてもそれが離れないせいで純粋に楽しめないし、合ってたら合ってたで虚無感に襲われるじゃん! なんてことしてくれるんだこのアマ!」
僕の今日一日の楽しみが全部パァだよ。ここまでこの小説のために費やしてきた時間ももれなくパァだよ。もう何も残らないし何も得られないことがここで確定してしまったと言えるだろう。糞が。小説の華が、これじゃ台無しだ。
「なんでって……趣返し」
「はぁ……? 僕はお前なんか知らないんだけど」
「――うん。そう、私たちは、赤の他人だ」
「……?」
なに、こいつ。まるで僕に合ったことがあるかのように喋ってくるそいつは、静かに目を伏せた。当然ではあるが、僕は彼女のような人間とは会ったこともないし見たこともない。僕は回りの同級生よりは多少は精神的にも知性的にも優れているとは思っているが、わからないことの方が圧倒的に多い。その一つに、彼女という存在を今追加した。
事実と食い違う彼女の態度。矛盾、それが僕にとっての彼女への第一印象だった。
今さらながら、ここは図書室である。その用途は主に読書であり、ここに訪れる子達の主目的となっている。だから目の前の黒髪の彼女が鞄から本を取りだし読書を始めることに、僕はなんの疑問も抱かなかった。それはもう随分と長い時間読み込まれてきたのだろう、表紙は日に焼けていて色を失い、何度も手に取られたせいで全体的に磨耗していた。そんなせいでタイトルは読みにくくはなっていたが、薄くなったインクで『西の魔女が死んだ』と書かれていた。
これはまた、有名な本だ。確かに面白い本ではあるが、そんなに飽きもせずに何度も読み込めるような内容だっただろうか。僕には難しくて所々てんで分からなかったから、そこまで興味が引かれる本とは思えなかった。
「……知ってるから、言わなくていい」
「見ればわかる」
舌打ち混じりに言葉を返す。先程のは大人げないことだがマジにムカついたから趣返し返しをしてやろうと思っていたのに、今日といい昨日といい上手くいかないことばかりじゃないか。そんな僕の表情が面白かったのか、彼女は穏やかに頬を緩ませた。なんだか微笑ましいものを見られているような目をしているのが大分鶏冠に来る。
「僕は帰るぞ」
「待って」
ランドセルを持った後にかかる待ったの声
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