最終話 罪と罰
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「勝手にあたしの脳内を脚色塗りたくって言葉にするなぁあぁあー!」
そんな彼女の胸中を見抜いた上で茶化す、マナーの悪い客の頭を握り潰しながら。タスラは密かに、ダタッツの行く先を想うのだった。
(礼も言わせてくれないなんて、ずるいじゃん……ばかっ!)
――その頃。
「……平和なものだな」
丘の上に聳え立つ邸宅から、港町の夜景を見つめるグランニールは、質素な椅子に腰掛けながら書類と向き合っていた。その身はもう海賊としての戦闘服ではなく、貴族としての礼服に包まれている。
――確かに、この港町には平和が戻った。アルフレンサーも刑期を終えれば、鉄仮面を脱いでここへ帰ってくる。
だが。贖罪の旅に戻って行ったダタッツの苦難は、この先も続いていくこととなる。それを知りながら、何の助けにもなれないことが、どうにも彼には歯痒かったのだ。
騎士としての鎧を纏い、町を巡回しているシュバリエルも、その想いは同じである。彼ら親子は共に、ダタッツの武運を願うより他なかった。
「……だが、君に平和が訪れぬ限り。私にも、真の平和は訪れぬ。……いつの日か、見せてくれ。君の、心からの笑顔を」
届くはずのない願いを、老人は敢えて口にする。願わなければ、どんな望みも叶うはずがないのだから。
「……」
――そんな想いを、風が運んだのだろうか。
暗い森の中を進む、黒衣の剣士は。誰一人味方がいない旅路の中でありながら――まるで仲間を気遣うかのように、後ろを振り返っていた。
だが、すぐに気を取り直し、森の闇へと歩みを進め――暗黒の渦中に消えていく。
人々を救う超常の力を授かりながら、人々を殺めてきた彼の贖罪。その旅はまだ、終わらないのだから。
◇
――私達が暮らすこの星から、遥か異次元の彼方に在る世界。
その異世界に渦巻く戦乱の渦中に、帝国勇者と呼ばれた男がいた。
人智を超越する膂力。生命力。剣技。
神に全てを齎されたその男は、並み居る敵を残らず斬り伏せ、戦場をその血で赤く染め上げたという。
如何なる武人も、如何なる武器も。彼の命を奪うことは叶わなかった。
しかし、戦が終わる時。
男は風のように行方をくらまし、表舞台からその姿を消した。
一騎当千。
その伝説だけを、彼らの世界に残して。
◇
――そして。
この戦いから一年後。
王国の城下町にて――本当の物語が、幕を開ける。
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