最終話 罪と罰
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が飲んで騒ぎ、賑やかに笑い合う夜の酒場。その看板娘であるタスラは、一通りのオーダーを終えて大きく伸びをする。細い腕が天井に向かって伸び――そのたわわな胸が上下に揺れ動く。
それをまじまじと見遣り、手を伸ばす男性客の脳天に踵落としが炸裂したのは、その直後だった。
「ぐわぁああいてえぇえ! 手加減なしかよタスラぁあ!」
「変態に手加減なんか無用よバカ! ウチの店はお触り厳禁!」
涙目になりながらうずくまる男性客と、それを叱る彼女の姿に他の客が笑い声を上げる。――バルキーテが町を牛耳っていた頃は、決して見られなかった「日常」が、ここにあった。
……あの戦いから、数日。
バルキーテは他の騎士達共々、賄賂とその他多数の余罪により王都へ護送され、投獄される手筈となっていた。その中には、「シン」ことアルフレンサーも含まれている。
鉄仮面に顔を隠し、あくまでバルキーテ一派の「シン」として罪を償うことに決めたアルフレンサーは、王都での獄中生活で刑期を終えた後、改めてグランニールの息子として港町に帰還することとなる。
この事実を知るのはダタッツとグランニールのみであり、その他の人間にはシンの正体は伏せられたままとなっていた。
現在はバルキーテに代わりグランニールが町長に返り咲き、次男のシュバリエルが補佐官を務めるようになっている。
バルキーテの賄賂や町民達への重税がなくなったことで、港町には数多くの帝国兵が駐在するようになったが――彼らは皆、口が悪いものの職務には忠実な騎士ばかりであり、現町長グランニールも彼らを率いる帝国騎士レオポルドとは友好的な関係を結んでいた。
今では駐在兵と町民が酔った勢いで殴り合い、その直後に肩を組んで笑い合う光景が名物にもなっている。
――この町には、確かに平和が訪れた。町民達の笑顔を見れば、それは間違いない。
だが、緑髪のウェイトレスはどこか腑に落ちない表情で……休憩用の自分の椅子に掛けてある、緑色の上着を見つめていた。
「タスラおねーちゃん、ぼくアイスミルクー!」
「わたしもー!」
「……はいはい、ちょっと待ってなさい」
保護者同伴で飲みにきた子供達に、アイスミルクを振る舞う彼女は――朗らかな笑みの中に、微かな憂いを隠していた。
(ダタッツ……)
あの戦いの直後。ダタッツは港町から姿を消し、再び旅に出ていた。
グランニールの口から、彼が自分達の味方について戦っていたことは聞かされていたが……雨上がりと共に行方をくらましていたため、礼を言う間もなかったのだ。
もし彼が、ほんの一晩だけでも町に留まって貰えたら……どれほど礼が言えただろう。
「あの時、ダタッツが一晩寝てくれたら何回キスできただろう――いだだだだだぁぁあっ!?」
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